「ねえ、今日の宿題やった?」と聞かれて、なんて答えてる?
朝、教室に入ってランドセルをロッカーにしまっていると、友達が少しあせった顔で走ってきました。
「ねえ、今日の算数の宿題、やってきた?」
このとき、あなたならなんて答えますか?
「はい、やりました」
そう答えたあなた。うん、とってもお行儀がよくて、正しいお返事ですね。先生やお家の人からも「ちゃんと返事ができてえらいね」とほめられる答え方です。
でも、友達との会話としては、実はちょっとだけ「おしい!」のです。
「えっ、どこがおしいの? 正しいお返事なのに……」と不思議に思うかもしれませんね。では、この「はい、やりました」という返事を聞いたときの、友達の様子を頭の中で想像してみてください。
友達は「あ、そっか……」と言って、なんだか少し気まずそうに、自分の席に戻っていきませんでしたか? 会話がそこで「ピタッ」と止まって、なんだか冷たい空気が流れてしまいませんでしたか?
実は、クラスで「あの人と話すと、なんだか楽しいな」「話しやすいな」と思われる感じがいい人は、このとき「はい」よりも先に、ある言葉を口にしているのです。
友達が本当に知りたかった「答え」はなに?
なぜ「はい、やりました」だと、会話が止まってしまうのでしょうか。それを知るために、質問した友達の「頭の中」をのぞいてみましょう。
友達は、あなたに「はい」か「いいえ」のテストをしたくて話しかけたわけではありませんよね。友達が本当に知りたかったのは、次のようなことのはずです。
- 「宿題の答えが合っているか、見せ合って確かめたいな」
- 「どうしてもわからない問題があったから、教えてほしいな」
- 「自分は宿題を忘れてきちゃったから、同じように忘れた人がいないか探して安心したいな」
そうなのです。友達は「宿題をやったかどうか」という事実よりも、「そのあとの会話」を期待して、あなたに話しかけているのです。
それなのに、あなたが「はい、やりました」とだけ答えてしまうと、友達は「あ、そうなんだ。やってきたんだね(じゃあ、忘れた僕とは話が合わないや……)」とか、「やってきたなら、見せてって言いづらいな……」と、次に言う言葉に困ってしまうのです。
せっかく友達が話しかけてくれたのに、これではもったいないですよね!
言葉のうらにある「本当のメッセージ」を見つける魔法
ここで、少しだけ大人っぽい「言葉の秘密」をお話しします。大学の先生たちが研究している学問の中に、「語用論(ごようろん)」や「社会言語学(しゃかいげんごがく)」というものがあります。
難しい名前に聞こえますが、中身はとってもシンプル。これは、「人は、言葉そのものの意味だけでなく、その場の空気や、相手との関係に合わせて、言葉のうらの中身を読みとって会話している」ということを研究する学問です。
例えば、お母さんがあなたに「部屋がちょっと散らかっているわね」と言ったとします。この言葉をそのまま文字通りに受け取ると、「部屋が散らかっているという、今の状態を教えてくれただけ」になりますよね。だから「そうだね、散らかっているね!」と答えたら……お母さんは怒ってしまうでしょう。
なぜなら、お母さんの言葉のうらには「だから、今すぐ片付けなさい」という本当のメッセージが隠されているからです。私たちは、言葉の文字通りの意味(部屋が散らかっている)ではなく、言葉のうらの意味(片付けなさい)をちゃんと読みとって、「わかった、今すぐ片付けるね」と行動しています。これが「語用論」の考え方です。
会話は「ロボットのクイズ大会」じゃない!
学校での友達との会話も、これとまったく同じです。友達の質問には、必ず「言葉のうらのメッセージ」が隠されています。
もし、あなたがロボットなら、「はい」か「いいえ」だけで答えるのが大正解です。ロボットはデータだけをやり取りすればいいからです。でも、私たちは人間です。心と心を通わせるために会話をしています。
感じがいい人は、この「言葉のうらのメッセージ」に気づくのがとっても上手です。相手が「本当に知りたいこと(答え)」を頭の中でピピッと考え、相手が一番ほしがっている答えを、「はい」と言うよりも先に、ポンと投げてあげているのです。
明日からできる!「答えを先に言う」3つの魔法のテクニック
では、具体的にどのように話せばいいのでしょうか。学校生活でよくある3つの場面を使って、明日からすぐに使える魔法のテクニックを紹介します。これをやるだけで、クラスメイトからの印象がガラリと変わりますよ!
① 友達から遊びに誘われたとき
昼休みに、友達が「ねえ、今日の放課後、公園でサッカーしない?」と聞きにきてくれました。でも、今日は塾や習い事があって遊べません。
- おしい返事:「いいえ、遊べません」
- 魔法の返事:「あ、今日は塾があるから遊べないんだ。せっかく誘ってくれたのにごめんね! 明日なら遊べるよ!」
「いいえ」を先に言うと、相手は「断られた、ショックだな」という気持ちが最初にきてしまいます。でも、「塾があるから遊べない」という理由(答え)を先に伝えることで、「意地悪で断っているんじゃないんだな」と相手はすぐに納得できます。さらに「明日なら遊べるよ」という一言をプラスすることで、「あなたと遊びたい気持ちはあるよ!」というメッセージが伝わり、次の約束にスムーズにつながります。
② 係活動やグループ学習のとき
クラスの係活動で、あなたがポスターを描く担当になったとします。同じ係の友達が「ポスター、もう描き終わった?」と聞きにきました。実は、まだ半分しか終わっていません。
- おしい返事:「いいえ、まだです」
- 魔法の返事:「半分くらい終わったよ! あとは色をぬるだけだから、今日の帰りの会までに終わらせるね!」
「いいえ」や「まだです」とだけ言われると、友達は「えっ、いつ終わるの? 間に合うのかな……」と不安になってしまいます。相手が本当に知りたいのは、終わったかどうかではなく「いつ、どうやって終わらせるのか」という見通しです。「半分終わった」「帰りの会までにやる」という具体的な答えを先に言うことで、友達をホッと安心させることができます。これが、クラスで「仕事ができる信頼される人」になるコツです。
③ お家でお手伝いをお願いされたとき
家でテレビを見ているとき、お母さんから「お風呂掃除、もうやってくれた?」と聞かれました。これからやろうと思っていたところです。
- おしい返事:「いいえ、まだ」
- 魔法の返事:「今からやるところ! このテレビ番組が終わったら、すぐにピカピカにしてくるね!」
「まだ」とだけ言うと、お母さんは「早くやりなさい!」と怒りたくなってしまいます。でも、「今からやる」「テレビが終わったらやる」という答え(予定)を先に言うことで、お母さんは「あ、ちゃんと考えてくれているんだな」と安心し、怒るのをやめてくれます。お家での余計なケンカを減らすためにも、この魔法はとっても役に立ちますよ!
なぜ「はい」を後回しにすると、感じがよくなるの?
「はい」や「いいえ」という言葉は、会話の「カベ」になりやすい言葉です。なぜなら、その2つの言葉は、会話をそこで完結させてしまう強い力を持っているからです。
会話をスムーズにするためには、このカベをできるだけ作らないことが大切です。質問されたら、まずは相手が一番知りたい「中身」を先に言う。そのあとに、必要なら「〜だから、やったよ(はい)」「〜だから、できなかった(いいえ)」と付け足すくらいが、ちょうどいいのです。
このように、相手の知りたいことを先回りして伝えることを、社会言語学では「協調的なコミュニケーション(お互いに助け合う会話)」と呼びます。会話はお互いにパスを出し合うサッカーのようなものです。相手が受け取りやすい場所へ、やさしいボールをポーンと投げてあげる。そのやさしさが、相手に「この人と話すと、なんだか心地いいな」と思わせる秘密なのです。
言葉のキャッチボールを「ドッジボール」にしないために
「はい」や「いいえ」だけでバシッと返事をするのは、相手にボールを強くぶつける「ドッジボール」のようなものです。相手はボールを受け止めきれず、痛い思いをしたり、逃げてしまったりします。
一方で、相手の気持ちを考えた「答え」を先に言うのは、相手の胸元にやさしくボールを届ける「キャッチボール」です。やさしいボールをもらった相手は、うれしくなって、またあなたに楽しいボールを投げ返したくなります。
クラスの中で、いつも周りに人が集まっていて、楽しそうに話しているあの人は、きっと無意識にこの「キャッチボール」をしています。特別な面白いギャグが言えなくても、相手を笑わせることができなくても大丈夫。この「はい」より先に答えを言う魔法を使うだけで、あなたは今日からクラスの一番の「聞き上手」「話し上手」になれるのです。
明日の朝、教室でさっそくやってみよう!
さあ、明日の朝、学校に行くのが少しワクワクしてきませんか?
教室のドアを開けたら、友達の言葉に耳をすませてみてください。そして、何か質問されたら、心の中で「にやり」と笑って、この魔法を思い出してください。
「はい」を言うのを、ほんの1秒だけガマンする。そして、友達が本当に知りたがっている「答え」を、あなたの優しい声で、最初に届けてあげるのです。
あなたのその一言で、友達の顔がパッと明るくなり、朝の教室がいつもより少しだけあたたかい場所に変わるはずですよ!