相手が話している時は、持っているものを「ピタッ」と置こう
想像してみてください。あなたは今、ものすごくうれしいことがあって、親友のところに走っていきました。「ねえねえ、聞いて! さっきね!」と声をかけます。でも、その友達はタブレットの画面を見たまま、あるいは読んでいるマンガから目を離さないで、「うん、聞いてるよ。言って」と答えました。
……さて、あなたはその時、どんな気持ちになりますか?
「聞いてるよ」と言ってはくれているけれど、なんだか胸のあたりがモヤモヤしたり、「本当は私の話なんて、どうでもいいのかな」と悲しくなったりしませんか? 逆に、あなたが話しかけた瞬間に、友達が「パタン」と本を閉じ、こちらを真っすぐ見て「なあに? どうしたの?」と聞いてくれたらどうでしょう。それだけで、「あ、私の話をちゃんと聞いてくれるんだ!」と、心がポカポカして、おしゃべりするのがもっと楽しくなりますよね。
クラスで「あの人と話すと、なんだか安心するな」「また話したいな」と思われる「感じがいい人」は、みんなこの魔法を知っています。それは、「相手が話しかけてきたら、今持っているものをピタッと置く」という、とてもシンプルな習慣です。
今回は、なぜこれだけで人の心が動くのか、その「言葉と心のひみつ」をいっしょに探っていきましょう!
「聞いてるよ」の言葉よりも、強いメッセージがある
私たちはふだん、言葉を使ってお互いの気持ちを伝えています。でも実は、人間の頭は「言葉そのものの意味」よりも、「その言葉を言っている人の態度や様子」を強く信じるようにできています。
これを、大学の研究などでは「語用論(ごようろん)」という学問で説明しています。少し難しい名前ですが、中身はとってもおもしろいものです。簡単に言うと、「言葉が、その場の空気や状況の中で、本当はどんな意味を持っているか」を考えるお勉強です。
例えば、あなたが算数のプリントを一生懸命やっている時に、友達から「ねえ、これ手伝って」と言われたとします。あなたが手元をにらみつけ、ペンをいそがしく動かしながら、怒ったような声で「いいよ、手伝うよ」と言ったら、友達はどう思うでしょうか。
言葉だけを見れば「手伝うよ(Yes)」と言っています。しかし、あなたの態度という「状況」が合わさることで、友達の頭の中には、まったく別のメッセージが届きます。それは、「本当は手伝いたくないけれど、無理やり『いいよ』と言っているんだな」というメッセージです。
これと同じことが、本やスマホ、タブレットを見ながら話を聞く時にも起こっています。
- 口から出ている言葉:「うん、聞いてるよ」
- 目や手が伝えているメッセージ:「今はこの本(画面)の方が、あなたの話よりも大事です」
悲しいことに、相手の心に届くのは、後者の「本の方が大事」というメッセージの方なのです。言葉でどれだけ「聞いてるよ」と言い訳をしても、目が別のところを向いているだけで、相手には「無視された」のと同じくらいのチクッとした痛みが伝わってしまいます。
会話は、お互いの「大切度」をたしかめ合う儀式
もう一つ、言葉について研究する「社会言語学(しゃかいげんごがく)」という学問の考え方を紹介します。この学問では、会話を単なる「情報のやり取り」とは考えません。会話とは、「あなたと私は、仲良くする仲間ですよ」とお互いにたしかめ合うための、大切な儀式(ルール)だと考えています。
クラスの中で、みんなが気持ちよく過ごすためには、この「お互いを大切にしているよ」というサインを出し合うことが欠かせません。
もし、あなたが話しかけられた時に、読んでいる本を机に「ピタッ」と置いたとします。この「本を置く」という何気ない動きこそが、社会言語学でいう「私は今、あなたとの関係を一番大切にしています」という強力なサインになるのです。
本を置く、スマホをポケットにしまう、持っている鉛筆を転がらないように置く。この1秒にも満たないアクションが、相手に対して「私は今から、私の時間をあなたのために使います」というプレゼントを渡していることになります。だからこそ、それを受けた相手は「大切にされている」と感じて、あなたに強い信頼と安心感を持つようになるのです。
明日からできる!「感じがいい人」になる3つのステップ
それでは、明日から学校の教室で、すぐに使える「魔法のアクション」を3つのステップで紹介します。これを意識するだけで、あなたの周りには自然と笑顔が増え、友達との距離がグッと縮まりますよ!
ステップ1:持っているものを「ピタッ」と置く
友達が「ねえねえ」と声をかけてくれたら、まずは持っているものを机に置きましょう。
- 読んでいる本やマンガは、しおりを挟むか、パタンと閉じます。
- 授業中のタブレットは、画面をふせるか、キーボードから手を離します。
- ノートに書いている途中なら、鉛筆を机の上に置きます。
この「置く音」や「動き」をあえて相手に見せることで、「あなたの話を聞く準備ができましたよ」という合図になります。
ステップ2:おへそを相手の「顔」に向ける
顔だけを「ひょい」と向けるのではなく、体ごと、つまり「おへそ」を相手の方にくるりと向けましょう。これをすることで、相手は「自分だけに注目してくれている」と感じて、とても話しやすくなります。体全体で「聞く姿勢」を作るのがポイントです。
ステップ3:相手の目を見て「うん!」とうなずく
準備ができたら、相手の目をやさしく見て、「うん! どうしたの?」と声をかけます。この時、笑顔をプラスできたら100点満点です! 相手は安心して、自分の話したいことを楽しそうに話し始めてくれるはずです。
こんな時どうする? ピンチを切り抜ける「お守り言葉」
そうは言っても、学校生活の中では「どうしても今、手を止められない!」という瞬間がありますよね。
- 連絡帳をあと3文字で書き終わる時。
- 先生に「あと1分で提出しなさい」と言われたプリントをやっている時。
- 係活動のポスターを、絵の具で慎重に塗っている時。
こんな時に話しかけられて、無理に手を止めてしまっては、あなたの作業が遅れて困ってしまいます。だからといって、無視をしたり、手元を見たまま「あとにして!」ときつく言ったりしては、相手を傷つけてしまいますよね。
そんなピンチの時に使える、とっておきの「お守り言葉」があります。それは、「ちょっと待ってね」を、相手の目を見て言うことです。
「今、これだけ書いちゃうから、30秒だけ待ってて! 終わったらすぐに聞くね!」
この言葉を、「一度だけ手を止めて、相手の目をしっかり見て」伝えます。そして、書き終わったらすぐに「お待たせ! なあに?」と、おへそを相手に向けて聞くのです。
これなら、相手は「無視された」とは絶対に思いません。「あ、今は忙しいんだな。でも、終わったらちゃんと話を聞いてくれるんだ」と、安心して待つことができます。お互いに嫌な気持ちにならずに、思いやりを通い合わせることができる、とても知的な解決方法です。
「聞き上手」は、クラスの隠れたスーパーヒーロー
クラスの中で人気がある人、いつも周りに人が集まる人は、実はおしゃべりが上手な人ばかりではありません。それ以上に、「この人と話すと、自分が大切にされている気がする」と思わせてくれる人です。
話を聞く時に、持っている本やスマホを置く。この小さな心がけは、誰にでもできる簡単なことです。でも、これを毎日、誰に対しても続けられる人は、実はクラスに数人しかいません。だからこそ、あなたがこれを始めるだけで、周りのみんなは「あれ? ○○ちゃん(くん)って、なんだかすごく話しやすくて、素敵だな」と気づき始めます。
会話は、キャッチボールです。相手が投げてくれたボール(言葉)を、グローブ(目と体)をしっかり相手に向けて、両手で受け止める。そのキャッチボールが続くたびに、あなたと友達の間には、目に見えない「信頼の絆」がどんどん太くなっていきます。
明日の朝、教室に入って、誰かがあなたに「おはよう!」と話しかけてくれたら、その瞬間が魔法を使うチャンスです。持っているランドセルや筆箱を一度「ピタッ」と置いて、笑顔でおへそを向けてみてください。きっと、いつもよりずっと温かい、素敵な一日がスタートしますよ!