一人で独占せずに順番を守る
あなたは、学校のドッジボールのボールや、クラスで人気の図書室のマンガ、あるいは公園のブランコを、「ずっと自分が使いたい!」と思ってしまったことはありませんか?
「やっと自分の番が来たんだから、もっと遊びたい!」
「せっかく手に入れたんだから、友達になんて貸したくない!」
そう思う気持ち、とてもよく分かります。大好きなものは、ずっと手元に置いておきたいですよね。でも、ちょっと周りを見渡してみてください。いつも自分ばかりが独り占めしていると、周りの友達はどんな顔をしていますか?なんだか遠くに行ってしまったり、「ケチだな」という視線を向けられたりしていませんか?
実は、自分の楽しさだけを優先して「独占(どくせん)」してしまうと、長い目で見たときに、一番損をしてしまうということが、人間の心を研究する学問で分かっています。
この章では、みんなで最高に楽しく遊ぶための秘密のルール、そして「ゆずる」ことが結果的に自分を一番ハッピーにする理由について、行動経済学(こうどうけいざいがく)という人間の心がもつ不思議なクセと一緒に解き明かしていきます。明日から学校で試したくなる「神」コミュニケーション術のスタートです!
「独占」すると、みんなが不幸になる?「コモンズの悲劇」のひみつ
いきなりですが、行動経済学という少しカッコいい名前の学問に出てくる、ちょっとこわいお話をしますね。それは「コモンズの悲劇(ひげき)」という現象です。
昔ある村に、みんなで使う大きな牧草地(ぼくそうち)がありました。そこには牛を何頭放してもいいというルールになっていました。村の人たちはこう考えました。
「自分が牛を1頭でも多く増やせば、牛乳もたくさん取れて、自分が得をするぞ!」
村中の人が、自分だけが得をしようと、次々と牛を牧草地に放しました。するとどうなったでしょう? 草はあっという間に食べ尽くされ、地面はボロボロになり、最後にはすべての牛が食べる草がなくなり、村中みんなが困ってしまったのです。
これ、実は学校のクラスでもよく起きています。例えば、学級文庫にある大人気のマンガ本。
- 「面白いから、次の係の活動のときまでカバンに入れておこう」
- 「返したくないから、家に持って帰っちゃえ」
- 「私の番なんだから、友達に貸すものか!」
こんなふうに、一人ひとりが「自分だけが得をしたい」「独り占めしたい」と行動すると、どうなるでしょうか? 本はボロボロになるか行方不明になり、誰も読めなくなってしまいます。そして、「あの子は自分勝手だ」というウワサが広がり、誰もあなたと一緒に遊んでくれなくなってしまうのです。これが、学校生活における「コモンズの悲劇」です。
「みんなのもの」を大切にする人が、一番得をする理由
行動経済学のすごいところは、「人間は、自分だけが得することばかりを考えて失敗する生き物だけど、『みんなで分け合う』仕組みを作ると、全員がハッピーになれる」ということを科学的に証明している点です。
みんなで順番を守ったり、おもちゃをシェアしたりすることは、一見すると「我慢(がまん)している」「損をしている」ように感じるかもしれません。「私の番が短くなっちゃった…」と、ちょっぴり悔しい気持ちになりますよね。
でも、考えてみてください。あなたが友達に「いいよ、次かわるね!」と笑顔で順番をゆずったとします。そのとき、友達はどんな顔をしますか? きっと、「やった!ありがとう!」と満面の笑みを見せてくれるはずです。そして、その友達は心の中でこう思います。
「〇〇くん(ちゃん)って、すごく優しいな。今度は僕(私)が持っている新しいおもちゃを貸してあげよう!」
これこそが、行動経済学で言う「互酬性(ごしゅうせい)」という心の仕組みです。人間は、親切にされたり、何かを分け与えてもらったりすると、「自分も同じようにお返しをしたい!」と自然に思ってしまう生き物なのです。
明日からできる!「順番マスター」になるための3つのステップ
「独り占めしないで、順番を守ったほうが得をする」ということは分かりましたね。では具体的に、学校生活や家のお手伝いの中で、どうやって行動していけばいいのでしょうか?
今日からすぐに使える、とっておきの3つのステップを紹介します。
ステップ1:タイマーや「回数」で自分のなっとくポイントを作る
「もっと遊びたい!」という気持ちを急にゼロにするのは、大人でも難しいことです。そこでおすすめなのが、ゲーム感覚でルールを作ることです。
例えば、公園のブランコや、クラスのタブレットでゲームをするとき、心の中で「100数えるまで」「砂時計が落ちきるまで」「3回こいだらおしまい」と、自分でゴールを決めちゃいましょう。自分で決めたゴールであれば、「よし、使い切った!」と納得して次の人に代わることができます。
また、お家でお手伝いとしておやつを分けるときも、「お皿にきれいに並べて、みんなで同じ数ずつ取る」というルールを自分で提案してみましょう。「お兄ちゃんだけ大きい!」なんてケンカを防ぐことができ、家族みんなから「しっかりしているね」と褒められます。
ステップ2:「次は〇〇ちゃんの番だよ!」と声をかけてあげる
ただ順番を守るだけではなく、一歩進んで「次の人にお知らせする案内人」になってみませんか?
例えば、図書室で人気の人気シリーズを読み終わったとき、ただ棚に戻すのではなく、仲良しの友達に「この本、すっごく面白かったよ! 次、読む?」と手渡してあげるのです。
係の仕事(例えば、黒板消しやプリント配りなど)でも同じです。「私ばかりがやらされている」と思うのではなく、「次は〇〇くんの番だよ、手伝おうか?」と声をかけてあげることで、クラス全体の雰囲気が一気に明るくなります。
「順番を管理する側」にまわると、不思議と「独り占めしたい」という気持ちが消えていき、むしろみんなが楽しそうにしている姿を見るのが嬉しくなってくるから不思議です。
ステップ3:「シェアしてよかったこと」を心の中でメモする
何かをゆずったり、順番を守ったりした日の夜、布団に入る前に今日あった「いいこと」を思い出してみてください。
- 「今日、ドッジボールのボールを『いいよ』って貸したら、お礼に消しゴムを貸してくれた!」
- 「係の仕事をみんなで交代したら、早く終わって一緒に遊ぶ時間がふえた!」
- 「おやつのプリンを半分こしたら、お母さんがすごく笑顔になってくれた!」
こうして、「分け合うと、結果的に自分にいいことが返ってくる(互酬性が働く)」という体験を頭の中でしっかりと味わうことが大切です。これを繰り返すうちに、あなたの脳は「独り占めするより、シェアしたほうが圧倒的に楽しい!」と学習し、自然と周りから愛される「神コミュニケーションの持ち主」になれるのです。
さあ、新しい自分に出発しよう!
自分の大好きなもの、大切なものを手放すのは、勇気がいることです。「取られちゃうんじゃないか」「損をするんじゃないか」と不安になることもあるでしょう。
でも、思い出してください。あなたが持っている優しさや、笑顔や、思いやりの心は、使えば使うほど減っていくものではなく、むしろ使えば使うほど大きくなって、あなたの周りにたくさんの友達という「宝物」を増やしてくれます。
一人で独占する小さな幸せよりも、みんなで分け合う大きな幸せ。その素晴らしさに気づいたあなたは、もう昨日までのあなたとは違います。
明日、学校の教室に入ったら、まずは近くの友達に笑顔を向けて、何かを「どうぞ」とゆずってみましょう。そこから生まれる温かい空気こそが、あなたをもっともっと輝かせる最高の魔法なのです。