小さな約束でも必ず守る
学校のしずかな教室。窓の外では、トントンと雨の音がきこえます。あなたは、いすにすわってノートに漢字の練習をしています。そこに、ともだちがパタパタと走ってやってきて、こう言いました。
「ねえねえ、今日のほうかご、校庭でサッカーしようよ!ぜったい遊ぼうね!」
あなたは元気よく「うん!いいよ!やくそくね!」と答えました。小さな、なんでもない会話です。でも、この「小さなやくそく」こそが、あなたがクラスのみんなから「この人となら、ずっといっしょにいたいな」「信頼できるな」と思われるための、とても大きくて大切な魔法のスタートなのです。
「あとでね」のあぶく銭?それとも「ちゃんと守る」の宝物?
あなたは、だれかとのやくそくを、うっかり忘れてしまったことはありませんか?
「あ、ごめん!ゲームするのに夢中で、すっかりわすれてた!」
「図書館で本をかしてあげるって言ったっけ?はは、わすれた!」
こんなふうに、「小さなことだし、いっか!」と、軽く考えてしまうことはよくありますよね。自分では「これくらい、すぐゆるしてくれるよね」と思っています。でも、やくそくを破られたほうの気持ちを、ちょっと想像してみてください。
- 「待っていたのに、来てくれなかった……」
- 「ぼくとのやくそくは、たいしたことないのかな……」
- 「もう、あの人とは大切な話をすまい」
心の中に、すこしさみしい風が吹きます。そして、あなたのまわりに「この人は、口だけだな」という見えない壁ができてしまうのです。たった一回の「小さなわすれもの」が、あなたのステキな笑顔や、やさしさをかくしてしまうとしたら……、それはとってももったいないことだと思いませんか?
なぜ?人間関係のひみつをときあかす「ゲーム理論」
ここで、少しだけかっこいいお話をします。大学や科学の世界で、人間がどうやってお互いに信頼し合うのかを研究する「ゲーム理論」という学問があります。
むずかしい計算をするわけではありません。「人間は、自分にとってトクすること(利益)と、損すること(不利益)を本能的に考えて行動しているよね」ということを、すじ道立てて考えるルールです。
ゲーム理論の中に、「繰り返し囚人のジレンマ(くりかえししゅうじんのジレンマ)」という、とても有名な考え方があります。むずかしい名前ですが、かんたんに言うとこういうことです。
「一回きりの関係なら、ウソをついたり、自分勝手にしたほうがトクをするように見える。だけど、学校のクラスや友だちのように、『これからもずっといっしょに生活する関係』では、お互いに『信じ合うこと』を続けるほうが、結果的にみんながいちばんハッピーになれる」
これを、あなたの学校生活に当てはめてみましょう。
あなたは、明日も、明後も、来週も、同じクラスの友だちと顔を合わせます。一生けんめい生きるこの世界で、あなたは一人ぼっちではありません。まわりのみんなと、毎日チームを組んで生活しているようなものです。
もし、あなたが「小さなやくそくだから、守らなくてもいいや」と自分勝手に行動すると、どうなるでしょうか?
友だちは、「この人は、自分の都合ですぐにやくそくを破る人だ」と学びます。すると、次に友だちはあなたに大切なことを教えてくれなくなったり、いっしょに遊んでくれなくなったりします。
つまり、「小さなやくそくを守らないこと」は、ゲーム理論でいう「自分の信用という大金持ちの口座から、お金を勝手に引き出してゴミ箱にすてること」と同じなのです。目先のかんたんさ(破ってもいいや)をとるために、一生つづく大切な信用を失ってしまうのは、とっても大きな「損」なのです。
「しんじられる人」が持っている、たったひとつの習慣
では、どうすればクラスのみんなから「この人とのやくそくは絶対安心だ」と思われる「神」コミュニケーションができるのでしょうか?答えは、とってもシンプルです。
それは、「小さなやくそくを、ダイヤモンドのように大切にすること」です。
大きなやくそく(たとえば、「誕生日にプレゼントを交換しようね」とか「夏休みにいっしょに旅行に行こうね」といったこと)は、だれでも気をつけます。気合いが入っているからです。
でも、本当にステキな人は、「小さなやくそく」にこそ、全力を注ぎます。
- 「明日の朝、連絡帳を貸してあげるね」
- 「係のポスターの色塗り、今日の放課後ちょっとだけ手伝うね」
- 「この漫画、来週の水曜日に必ず持ってくるね」
こういう、日常の中にあふれる「小さな約束」を、カレンダーや手帳、あるいは頭の中にしっかりメモして、絶対に守るのです。
明日からできる!「神・約束マスター」への3つのステップ
明日から、学校でさっそく試せる「やくそくを必ず守るための3つのステップ」を紹介します。どれも、今日からノートとペンがあればできることばかりです。
ステップ1:その場で「メモする」クセをつける
友だちから「これ、貸してね」「あとで教えてね」と言われたとき、生返事で「うん、いいよー」と流していませんか?
人の記憶力は、大人が思っているよりもずっとあてになりません。教室のざわめきの中では、5分後にはきれいに忘れてしまいます。
だから、言われた瞬間に、自分のノートの端っこや、連絡帳に「〇〇ちゃんに消しゴムをかす」とサッと書くのです。この「書く姿」を見るだけで、友だちは「あ、この人は本気で聞いてくれたんだな」と安心します。
ステップ2:「できないかもしれない」ときは、はじめに言う
やくそくをしたあとに、「あ、やっぱり無理かもしれない……」と気づくこともありますよね。そんなときは、時間がたってから「ごめん、やっぱりムリ!」と言うのではなく、気づいた瞬間にすぐ伝えることが大切です。
「今日の放課後、お手伝いできるって言ったけど、お母さんに『まっすぐ帰りなさい』って言われてたんだ……ごめん!明日の朝ならできるけど、どうかな?」
このように、できない理由を正直に話し、代わりの提案(代替案と言います)をセットで伝えることで、相手は「守れなかったこと」よりも「誠実に向き合ってくれたこと」に感動します。
ステップ3:約束を守れたら、自分をほめる
小さなやくそくを守り通すことは、最初はちょっとエネルギーがいります。だからこそ、約束を守れた日の夜は、お風呂に入りながら「今日も、〇〇くんとの約束をちゃんと守れたな。ぼく、かっこいいぞ!」と心の中で自分を思いきりほめてあげましょう。
この「気持ちよさ」が、あなたの自信を育てていきます。
信頼という名の、一生ものの宝物
「小さな約束を必ず守る」ことは、魔法のじゅたんに乗るような、派手ですごいことではありません。地味で、誰も見ていないところでのがまんのように見えるかもしれません。
けれど、ゲーム理論が教えてくれるように、あなたが日々の小さな約束を大切にし続けると、まわりの人たちは自然とあなたに引き寄せられてきます。
「この人に相談すれば大丈夫」
「この人といっしょなら、どんなときも安心できる」
そんなふうに、あなたを心から信頼してくれる親友や仲間が、あなたのまわりにどんどん増えていきます。それは、大きくなっても、大人になっても、あなたの一生をずっと支えてくれる、何よりも強い「宝物」になります。
さあ、明日、学校の教室のドアを開けたら、まずは近くの友だちとの「小さな約束」を一つ、大切に守ることから始めてみませんか?あなたのまわりの空気が、きらきらと輝き出すのを感じるはずです。