話すときは口角を少し上げる
朝、教室に入ったとき、黒板の近くで日直の仕事をしていた友達と目が合った瞬間を思い出してみてください。その子がちょっとニコッとして「おはよう!」と言ってくれたら、なんだか自分までうれしい気持ちになりませんか?
反対に、むすっとした顔で「おはよう」と言われたら、「ぼく、何か怒らせるようなことしたかな……?」と、ちょっとドキッとしてしまいますよね。
人は、思っている以上に相手の「顔の表情」を見ています。そして、相手がどんな顔をしているかで、その人の気持ちを無意識に判断しているのです。
でも、「いつもニコニコしていなさい」と言われても、なんだかむずかしいし、作り笑いをしているみたいで恥ずかしいな、と思うかもしれません。それに、ずっと笑顔でいるなんて、なんだか疲れてしまいますよね。
そこで紹介したいのが、この本で一番おすすめしたい、誰でもすぐにできて、魔法のようにまわりの雰囲気を変えてしまう「神」コミュニケーション術です。それは、「話すときは、口角(こうかく)を少しだけ上げる」ということです。
「口角」というのは、くちびとの両はじの端っこ(すみっこ)のことです。ここを、ほんの少しだけキュッと上に持ち上げるだけで、あなたの印象はガラリと変わります。クラスの友達や先生、おうちの人ともっと仲良くなれる秘密のテクニックを、脳の仕組みと一緒に見ていきましょう!
脳の科学で証明されている!「笑顔」が持つすごいパワー
「でも、ただ口の端っこを上げるだけで、本当にそんなに変わるの?」と思いますよね。
ここで、私たちの頭の中にある「脳(のう)」のふしぎなお話——神経科学(しんけいかがく)という、脳や体のつながりを研究する科学の出番です。
実は、神経科学の研究で、とても面白いことが分かっています。それは、「体のかたちの変化を、脳がキャッチして、あとから感情が追いついてくる」ということです。
ふつうは、「うれしいことがあったから、笑う」順番だと思いますよね。テストで100点取ってうれしい!だから笑顔になる、というふうに。もちろんそれも本当です。
でも、脳の仕組みはもっと単純で、そしてちょっぴりおもしろいんです。脳は、「口の端っこが上がっている(=笑っているかたちになっている)」という顔の筋肉からの信号を受け取ると、「あれ?いま、ぼく(わたし)は笑っているぞ。ということは、楽しいことや、うれしいことがあるんだな!」と勘違いするのです。
その結果、脳から「楽しい気分になろう!」という指令が出て、本当に心がウキウキしてきたり、前向きな気持ちになったりするんです。これを科学の世界では「表情フィードバック効果」と呼んでいます。
相手の脳にある「ミラーニューロン」という鏡
さらに、私たちの脳にはもう一つ、すごい仕組みがあります。それが「ミラーニューロン」です。「ミラー」とは「鏡」のこと。つまり、頭の中に「心の鏡」を持っているようなものです。
あなたが誰かと話すとき、口角を上げて少しニコッとした顔を見せると、相手の脳にあるミラーニューロンが、まるで鏡のようにその表情をピタッと写し取ります。
相手は、言葉で言われなくても、あなたの顔を見た瞬間に「あ、この人はぼく(わたし)と話すのを楽しんでくれているんだな」「安心できる人だな」と、脳の奥底で感じ取るのです。
これが、口角を少し上げるだけで、相手があなたに好感を持ち、「もっとお話ししたいな」と感じる理由です。神経科学の視点から見ても、笑顔は最高のコミュニケーションの道具なのです。
学校生活で実践!口角アップの「3つのコツ」
神経科学のすごいパワーがわかったところで、明日からの学校生活で、すぐに試せる「口角アップ術」のコツを3つ紹介します。どれも、今日からノートの端に書いておきたくなるくらい簡単なことばかりです!
- コツ1:「い」の口をつくる(鏡の前で0.5秒の準備)朝の会や、家を出る前に、鏡の前で小さな声で「いー」と言ってみましょう。そのときの口のかたちが、ちょうど口角がキュッと上がった状態です。この形を、いつでも作れるように口のまわりの筋肉に教えてあげましょう。
- コツ2:教科書を読んだり、発表したりするときに使う国語の音読の時間や、係の発表のときに、いつもより口角を2ミリだけ上げてみてください。「えっ、そんなに少しでいいの?」と思うかもしれませんが、たった2ミリ上がるだけで、声のトーンも明るくなり、聞いているクラスメイトに「一生懸命伝えてくれているな」という温かい気持ちが伝わります。
- コツ3:友達から話しかけられた瞬間をキャッチする休み時間に「ねえねえ、今日の宿題やった?」と友達が話しかけてくれたとき、ノートからパッと顔を上げたその瞬間がチャンスです。すぐに真顔で「ううん、まだ」と答えるのではなく、口角を少し上げて「ううん、まだなんだ!一緒にやろうか?」と返すと、会話の弾み方が全然違ってきます。
具体的なシミュレーション:明日からこうやって使ってみよう!
では、具体的にどんなふうに学校生活のなかで口角を上げたらいいのか、いくつかの場面を想像してみましょう。自分が主人公になったつもりで読んでみてくださいね。
パターン1:給食の班で、苦手なおかずを配られるとき
今日の給食は、あなたがちょっと苦手なブロッコリー。当番の友達が、お皿に大きめのブロッコリーをのせてくれました。
そんなとき、つい「うわ、ブロッコリーだ……」と、口をへの字に曲げてしまいがちですよね。でもそこで、ぐっとこらえて口角をほんの少し上げて、「ありがとう、いただきます!」と言ってみてください。
不思議なことに、顔の形が笑顔になっているので、自分の脳が「あれ、ブロッコリーだけど、なんだか食べられそうな気がするぞ?」と前向きなモードに切り替えてくれます。配ってくれた友達も、「よろこんでもらえたのかな?」とうれしい気持ちになります。
パターン2:グループワークで自分の意見を発表するとき
総合的な学習の時間や、図工のグループ話し合いで、「ぼくは、こういうアイデアはどうかなと思うんだけど……」と意見を言う場面です。
緊張して声が小さくなったり、真面目すぎる顔で話したりすると、まわりの友達は「怒っているのかな?」「自分の意見を押し付けられているのかな?」と少し身構えてしまうことがあります。
そんなときこそ、話し始めのタイミングで口角を少し上げてみましょう。「このアイデア、みんなと一緒に考えたいんだよ」という優しい気持ちが、口角の筋肉を伝わって、自然とまわりに広がっていきます。みんなも「それ面白そう!いいね!」と賛成しやすくなるのです。
パターン3:廊下で先生や縦割り班の下級生とですれ違うとき
校舎の廊下を歩いているとき、担任の先生や、お掃除の班の下級生とすれ違います。会釈(えしゃく)をするとき、ただ会釈をするだけでもいいのですが、ほんの1秒だけ口角をキュッと上げて「こんにちは!」と目を見て挨拶をしてみてください。
すれ違った相手は、その日一日がちょっとハッピーな気持ちになります。「あの先輩、いつも挨拶してくれて感じがいいな」「この先生と話すと安心するな」という信頼感が、あなたのまわりにどんどん貯金されていくのです。
「作り笑い」になってもいい!まずは形から入ってみよう
ここまで読んで、「でも、人に合わせて口角を上げるなんて、なんだか作り笑いみたいで気が引けるな……」と感じる優しい人もいるかもしれません。
実は、大人の社会でも「笑顔を作ること」の大切さはよくお話されます。でも、子どもであるみなさんは、大人のように無理をして作り笑いをする必要はありません。心が疲れているときは、無理をしなくても大丈夫です。
ただ、神経科学の実験でも分かっているように、私たちの脳はとても素直です。心がうれしいから笑うのではなく、「口角を上げるという形を先につくるから、心が少しずつ明るくなっていく」のです。
だから、「ちょっとだけ、口の端っこを持ち上げてみようかな」という軽い気持ちで、ゲームの技を試すような感覚でやってみてください。それは嘘の笑顔ではなく、あなた自身がもっと心地よく、もっと楽しく学校生活を送るための「自分へのプレゼント」なんです。
明日、教室のドアをガラッと開けたとき、または朝、おうちの人に「おはよう」と声をかけるとき。ほんのすこしだけ、口の端っこをキュッと上げてみてください。
そこから始まるクラスの空気の変化を、ぜひあなたの脳と心で、たっぷりと味わってみてくださいね。