「わたしね!」「ぼくね!」をちょっとだけお休みしてみよう
学校の休み時間、仲良しの友達とのおしゃべりはとっても楽しい時間ですよね。楽しかったゲームのこと、テレビで見おもしろかったお笑い芸人のこと、新しくクラスで決まった係活動のことなど、話したいことが山ほどあるはずです。
でも、ちょっとだけ思い出してみてください。友達と話しているとき、あなたの口からこんな言葉が何度も飛び出していませんか?
- 「あ、それ知ってる! わたしね、こないだね……」
- 「へえー。あ、ぼくなんか、もっとすごいカード持ってるよ!」
- 「そんなことよりさ、今日の給食のメニューなんだけど……」
友達が楽しそうに話しているのに、ついつい「わたしが!」「ぼくが!」と、自分の話にすり替えてしまう。これは、小学生のみなさんの間で毎日のように起きていることです。決してあなたが悪いわけではありません。人間はだれでも、「自分のことを知ってほしい!」「自分の話を聞いてほしい!」という強い気持ちを持っているからです。
だけど、想像してみてください。もしもあなたが、昨日おうちでがんばったお手伝いのことを一生懸命話しているのに、友達から「ふーん。あ、それよりさ!」と話をさえぎられてしまったら、どんな気持ちになるでしょう? なんだか、胸のあたりがチクッとして、悲しい気持ちになりますよね。そして、「この子には、もうお話するのをやめようかな」と思ってしまうかもしれません。
クラスでいちばん好かれる子は、この「チクッとする気持ち」を友達に絶対にさせません。なぜなら、自分の話をするのをちょっとだけお休みして、「聞き役に回る時間」をたっぷりとっているからです。今回は、なぜ話を聞く人が愛されるのか、その秘密を不思議な学問の力から解き明かしていきましょう。
なぜ「聞き上手」は世界中で愛されるの?(文化人類学のおはなし)
ここで、少しだけ不思議な学問のお話をします。世界中のいろいろな国に住む人たちのくらしや、大昔の人間の歴史を研究する「文化人類学(ぶんかじんるいがく)」という学問があります。この研究のなかで、とてもおもしろいことがわかっています。
今から何万年も前、大昔の人間は、マンモスを追いかけたり、木の実を拾ったりして、みんなで協力しながらグループでくらしていました。そのころは、今のようにスマートフォンも教科書もありません。お互いにおしゃべりをすることで、大切な情報を伝えていました。
文化人類学者たちの研究によると、大昔のグループのなかで、いちばんみんなから信頼され、リーダーとして大切にされたのは「狩りが得意な強い人」だけではなかったそうです。本当にみんなから愛されたのは、「仲間の話をじっくりと、最後まで聞くことができる人」でした。
なぜなら、話をよく聞く人は、次のような大切な役割を果たしていたからです。
- 仲間の「あっちの森に、おいしい木の実があったよ」という話をしっかり聞いて、みんなに伝えることができた。
- 「最近、体がだるくてつらいんだ」という仲間の悩みをしっかり聞いて、やさしく休ませてあげることができた。
- 自分の意見ばかりを通そうとせず、みんなの意見をよく聞いてから行動したため、グループのなかにケンカが起きなかった。
つまり、大昔から人間は「自分の話をしっかり聞いてくれる人を、仲間として大切にする」という本能(生まれつき持っている心)を持っているのです。あなたが友達の話を「うん、うん」と聞くことは、友達の脳に「私はあなたの味方だよ。あなたを大切に思っているよ」という安心のシグナルを送っていることになります。だからこそ、聞き上手な子は、世界中のどこに行っても、どんな時代でも愛されるのです。
数字でわかる!好かれる子の「おしゃべり黄金比率」(統計学のおはなし)
もうひとつ、今度は数字を使って世の中のきまりを見つける「統計学(とうけいがく)」という学問の力を借りてみましょう。
ある研究チームが、たくさんの人たちを集めて「どんな会話をすると、お互いに『楽しかった! またこの人と話したい!』と感じるか」を、コンピューターを使って細かく調べました。話す時間と聞く時間のバランスを、いろいろなパターンで実験したのです。
その結果、おどろくべき「黄金比率(おうごんひりつ)」が見つかりました。いちばん仲良くなれるおしゃべりのバランスは、これです!
【自分が話す量】3 : 【相手の話を聞く量】7
どうですか? 「えっ、そんなに聞くの?」とびっくりした人も多いのではないでしょうか。半分ずつ(5:5)ではなく、自分が話すのは3割だけで、あとの7割は友達に気持ちよく話してもらう。これが、統計学が証明した「いちばん愛されるバランス」なのです。
学校生活でいうと、休み時間の5分間のうち、あなたが話すのは1分半くらい。残りの3分半は、友達の話をじっくりと聞く時間にあてるイメージです。このバランスを意識するだけで、友達はあなたとバイバイしたあとに「なんだか今日のおしゃべり、すっごく楽しかったな! また明日もあの子と話したいな」と、魔法にかかったようにあなたのことが大好きになります。
明日からできる!「聞き上手」になる3つの魔法
「3:7のバランスが大事なのはわかったけれど、具体的にどうすればいいの?」と思ったあなたへ。明日から教室ですぐに使えて、クラスメイトがどんどん笑顔になる「3つの魔法」を紹介します。
魔法1:相手の言葉をそのまま返す「オウム返し」
話を聞くのが上手な子は、特別なアドバイスや、おもしろいギャグを言う必要はありません。友達が言った言葉を、そのままオウムのようにくり返すだけでいいのです。
例えば、朝の教室で友達がこう言ったとします。
「昨日、お母さんと一緒に、新しい文房具屋さんに行ったんだ!」
ここで、悪い例と良い例を比べてみましょう。
❌ダメな例(自分の話にすり替える)
「へえー。あ、わたしもこないだ新しいシャープペン買ったよ!」
⭕️良い例(オウム返し)
「へえー! 新しい文房具屋さんに行ったんだ! いいな、何を買ったの?」
友達が言った「新しい文房具屋さんに行った」という言葉を、そのままくり返して、そのあとに「何を買ったの?」と質問をくっつけています。これだけで、友達は「あ、この子は私の話をちゃんと聞いて、興味を持ってくれた!」と嬉しくなり、もっとたくさんお話したくなります。
魔法2:体全体で「聞いてるよ」のサインを出す
話を聞くときは、口だけでなく「体」も使います。これを「ボディーランゲージ」と呼びます。次の3つのポーズを意識してみてください。
- おへそを相手に向ける: 体を斜めにしたり、よそ見をしたりせず、おへそをしっかり友達の方に向けます。
- 首を大きくふる(うなずく): 友達の話の区切りで、「うん、うん」「へえー!」と、首をたてにふります。
- 目と目の間あたりをふんわり見る: じっと見つめすぎると相手が緊張してしまうので、相手の目や鼻のあたりをやさしく見つめます。
クラスの係活動の話し合いのとき、このポーズで話を聞いてみてください。意見を発表している友達は、「この人がこんなに真剣に聞いてくれるから、安心して発表できるな」と、あなたに心の中で大感謝するはずです。
魔法3:自分の話は「3ステップ」で短くまとめる
自分が話す番(3割の時間)がきたときは、だらだらと長く話さず、すっきりと短く話すのがコツです。次の3つのステップで話すと、とてもわかりやすくなります。
- 【結論】 いちばん伝えたいことを最初に言う。
- 【理由】 なぜそう思ったのかを、1つだけ言う。
- 【パス】 最後に「〇〇ちゃんはどう思う?」と、友達にバトンを渡す。
例えば、班の自由研究のテーマを決めるときの会話です。
「私は、『世界のめずらしい虫』について調べるのがいいと思うな(結論)。図鑑を見るのが好きで、みんなで調べたら楽しそうだからだよ(理由)。〇〇くんは、どんなテーマがいいと思う?(パス)」
このように最後に「パス」を出すことで、会話がキャッチボールのようになり、自分の話ばかりになるのを防ぐことができます。
こんなときどうする?学校生活のシチュエーション別ヒント
学校では、いろいろな場面がありますよね。それぞれの場面で、どのように「聞き役」になればいいのか、具体的なヒントをまとめました。
友達が悲しそうにしているとき・怒っているとき
「どうしたの?」と聞いて、友達が話し始めたら、絶対に途中でアドバイスや意見を言わないことが鉄則です。
「それは〇〇ちゃんが悪いよ」とか「こうすればいいのに」と言うのはガマンしましょう。ただひたすら、「そっか、それは悲しかったね」「悔しかったんだね」と、相手の気持ちに寄り添って、話を最後まで全部吐き出させてあげてください。それだけで、友達の心はすっきりと軽くなり、あなたを「いちばんの親友」だと感じるようになります。
おうちでお手伝いをするとき
この聞き方の魔法は、おうちでも大活躍します。お母さんやお父さんにお手伝いを頼まれたとき、ただ「はーい」と返事をするだけでなく、一歩進んで聞いてみましょう。
「お皿洗いを手伝うね! お皿はどこに片づけたら、お母さんがいちばん使いやすい?」
このように、相手の気持ちや都合を「聞く」ことで、おうちの人は「なんて気がきく、やさしい子なんだろう!」と大感動するはずです。
クラスの係活動や委員会で、意見がぶつかったとき
みんなが「自分の意見を通したい!」とイライラしているときこそ、あなたの出番です。一歩下がって、こう言ってみましょう。
「みんなの意見、どれも素敵だね。一回、それぞれの良いところを順番に聞いてみない?」
自分の話ばかりする人が多いなかで、このように「みんなの話を聞こう」と提案できる人は、クラスの中で圧倒的に信頼されます。先生からも「しっかり周りを見て行動できる、素晴らしいリーダーだね」と、一目置かれるようになるでしょう。
明日、学校のげんかんで上履きをはいたら
明日の朝、学校に着いて上履きをはいたら、心の中でこうつぶやいてみてください。
「よし、今日は『3:7』の魔法を使ってみよう!」
友達が話しかけてくれたら、心の中で「しめしめ、聞き役のチャンスだぞ!」とワクワクしてください。自分の話をしたくなったら、ぐっとこらえて「オウム返し」と「質問」をしてみるのです。
あなたの話を聞く態度が少し変わるだけで、周りの友達の表情がパッと明るくなり、あなたを見る目が優しく変わっていくことに気づくはずです。クラスでいちばん好かれる子は、特別な魔法使いではありません。ただ、友達の話を「だれよりも嬉しそうに聞くことができる人」なのです。さあ、明日のおしゃべりが、今からとっても楽しみですね!