第6章:小さな親切が「味方」を増やす
困っている人に「大丈夫?」と声をかける
朝の読書タイム、となりの席の友達がふでばこをひっくり返して、けしごむやえんぴつが床いっぱいに転がってしまった。そんな場面に出くわしたことはありませんか?
クラスの中を見わたしてみると、毎日の学校生活には「うわぁ、困ったな…」という瞬間がたくさん転がっています。
- 給食の時間を知らせる放送がかかったのに、配膳の準備が間に合っていない給食係さん
- 掃除の時間、大きくて重い机をひとりで運ぼうとしてグラグラしている友達
- 休み時間が終わるのに、配るはずのプリントがまだたくさん残っている日直さん
- 図工の時間、絵の具のお水が入ったバケツをうっかりたおしそうになっているとなりの子
こんなとき、あなたならどうしますか?「自分には関係ないや」と通りすぎてしまうこともできますよね。でも、ここでたった一言、「大丈夫? 手伝うよ!」と声をかけることができる人は、クラスの中でどんどん「味方」を増やしていくことができるのです。
実は、この「大丈夫?」という一言には、大人のあいだでも研究されている「心とお買い物のふしぎな仕組み(行動経済学)」の魔法がかくされています。この魔法を知ると、なぜ声をかけるだけで敵がいなくなり、みんながあなたの味方になってくれるのかが、バッチリ分かりますよ!
行動経済学のひみつ①:「お返しの魔法(へんほうせい)」
行動経済学(こうどうけいざいがく)という学問では、人間がどんなときにどういう行動をしてしまうのかをたくさん研究しています。その中に、とっても有名な「心のルール」があります。それは、「人から親切にしてもらうと、自分もその人に何かお返しをしたくなる」というルールです。
たとえば、誕生日にお友達から「おめでとう!」とかわいい消しゴムをもらったら、「次のその子の誕生日には、自分もステキなプレゼントをあげたいな!」と思いますよね。これと同じ心が、学校のクラスでも毎日動いています。
あなたが給食の準備で困っている友達に「大丈夫? これ運ぶよ!」と手伝ってあげたとします。すると、手伝ってもらった友達の心の中には、「うれしい! この人はぼく(わたし)に優しくしてくれた!」というあたたかい気持ちと同時に、「今度この子が困っていたら、絶対にたすけてあげよう!」という「お返しの気持ち」が芽生えます。
つまり、あなたが「大丈夫?」と声をかけた瞬間に、その友達はあなたの「敵」になる可能性がゼロになり、頼もしい「味方」に変身してしまうのです!
行動経済学のひみつ②:「ピンチのときの親切は10倍うれしい!」
行動経済学のもうひとつの面白い考え方に、「人間は、自分が損をしそうなピンチのときほど、心の中のメーターが大きく動く」というものがあります。
なんにも困っていない、ふつうの時に「これあげる!」と言われるのも嬉しいけれど、自分がものすごく困っている時に助けてもらえると、その嬉しさは10倍以上に感じられるのです。
想像してみてください。
掃除の時間、終わりのチャイムがあと1分で鳴りそうなのに、自分の担当のエリアが全然終わっていないピンチのとき。「やばい、先生にからかわれたり、怒られたりするかも…」とあせっている時に、となりの班の友達がダッシュでやってきて、「大丈夫!? 一緒にほうきで掃こう!」と手伝ってくれたらどうでしょう?
「なんて良い子なんだろう!」と、心の底から感謝しますよね。ピンチのときに助けてくれた人の顔と名前は、人は絶対に忘れません。だからこそ、相手が困っている瞬間の「大丈夫?」は、最高の味方をつくる魔法のシグナルになるのです。
明日からできる!「大丈夫?」の魔法を使いこなす3ステップ
「でも、急に声をかけるのって、なんだか恥ずかしいな…」
そう思う人も安心してください。だれでも簡単に、自然に「大丈夫?」と声をかけられるようになる3つのステップを紹介します!明日から学校で試してみてくださいね。
ステップ1:クラスの「こまったサイン」を探す探偵になろう
まずは、クラスの中にいる「困っている人」を見つける練習です。学校の中には、声に出さなくても「助けて〜!」のサインを出している人がたくさんいます。
- 眉毛(まゆげ)が八の字になって、下を向いている子
- 「うーん」と小さな声を出しながら、じっと手元を見つめている子
- 周りをキョロキョロ見回しながら、オロオロ歩いている子
- たくさんの荷物や道具を抱えて、フラフラ歩いている子
こんな友達を見つけたら、心の中で「あ! こまったサイン発見!」と合図を出しましょう。探偵になった気分でクラスを観察すると、毎日がちょっとワクワクしてきますよ。
ステップ2:3秒以内に「一言」だけ声をかける
「こまったサイン」を見つけたら、あれこれ考えずに「3秒以内」に声をかけるのがコツです。時間がたつと、「断られたらどうしよう…」「目立ったらイヤだな…」と余計なことを考えて、動けなくなってしまうからです。
声をかけるときは、むずかしい言葉はいりません。笑顔で一言、こう言うだけで十分です。
「大丈夫? 何か手伝おうか?」
たったこれだけです! 長い説明はいりません。「大丈夫?」のたった4文字に、あなたの優しさが全部つまっています。
ステップ3:相手が断ってきても笑顔で「オッケー!」
勇気を出して「大丈夫?」と声をかけたのに、相手が照れてしまって「ううん、大丈夫!」と言ってくることもあります。
そんなとき、「せっかく声をかけたのに…」と落ち込む必要はまったくありません! 行動経済学のルールを思い出してください。相手は「大丈夫!」と断ったとしても、「自分のことを心配して声をかけてくれた」という事実はしっかりと心にのこっています。それだけで、「お返しの魔法」はかかっているのです。
もし断られたら、にっこり笑って、
「そっか! オッケー、無理しないでね!」
と言って、自分の席に戻れば大成功です。これだけで、相手の心の中ではあなたが「優しい味方」として登録されます。
学校と家でつかえる!場面別の「大丈夫?」テクニック
学校生活のいろいろな場面で使える具体例を集めました。自分ならどの場面でつかえそうか、チェックしてみてくださいね!
【授業中や休み時間】
場面:となりの席の子が、教科書やプリントをなかなか開けないとき
「大丈夫? 何ページか分からなくなっちゃった? ○○ページだよ!」とそっと指でおしえてあげる。
場面:休み時間、一人でぽつんと席にすわっている子がいるとき
「大丈夫? 次の時間の準備できた? よかったら一緒に図書室いかない?」と声をかけてみる。
【係活動・委員会活動・掃除の時間】
場面:黒板消し係の子が、背がとどかなくて上のほうが消せていないとき
「大丈夫? 上のほう、消そうか?」と黒板消しを受け取ってあげる。
場面:掃除の時間、大きなゴミ箱がいっぱいで運びにくそうなとき
「大丈夫? かたほう持つよ!」と反対側を一緒にもってあげる。
【お家でのお手伝い】
この魔法は、学校だけでなくお家でもすご威力を発揮します!
場面:お父さんやお母さんが、夕方いそがしそうにごはんを作っているとき
「お母さん、大丈夫? おはし並べるのやろうか?」
こんな風に声をかけられたら、おうちの人は飛び上がるほどうれしくなります。家の中でも「味方」がいっぱい増えて、お小遣いやおやつが増えちゃう…なんてこともあるかもしれませんね!
敵をつくらない人は、「大丈夫?」の種をまいている
クラスの中でいつも友達に囲まれていて、だれからも意地悪をされない人気者の子っていますよね。そういう子は、特別な魔法を使っているわけではありません。毎日クラスの中で、小さなお花を植えるように「大丈夫?」の言葉の種をまいているだけなのです。
「大丈夫?」と声をかけることは、相手を助けるだけでなく、未来の自分を助けることにもなります。
あなたが困ったとき、過去に「大丈夫?」と声をかけてあげたクラスの友達が、今度はヒーローのように走って助けに来てくれます。クラスみんなが「大丈夫?」と言い合えるようになったら、そこはもう、意地悪や敵なんて一人もいない、最高に楽しい教室になります。
さあ、明日の朝、学校の門をくぐったら、まずはとなりの席の友達や、係活動でがんばっている友達をよく観察してみましょう。
そして「こまったサイン」を見つけたら、勇気を出して、小さくニッコリ微笑みながら言ってみてください。
「大丈夫? 手伝うよ!」
その一言から、あなたの学校生活はもっとワクワクする楽しい毎日へと変わりはじめます!