名前を呼んでから話しかける
朝、教室のドアをガラガラと開けるとき、あなたのアタマの中にはだれが浮かんでいますか?
「あ、仲良しの〇〇くんがいるな」「あそこにいる〇〇ちゃん、昨日おもしろいテレビの話をしてくれたな」そんな風に、クラスの友達のすがたが目に入ると思います。でも、いざ話しかけるとき、あなたはどんな言葉を使っているでしょうか。
「ねえねえ、ちょっと聞いてよ!」
「ねえ、これ知ってる?」
こんな風に、「ねえ」とか「ちょっと」という言葉だけで話しかけてはいませんか?実は、この「ねえ」を、ある「まほうの言葉」に変えるだけで、クラスの中にあなたの「敵(てき)」がいなくなり、みんながあなたのことを大好きになってしまう方法があるのです。そのまほうこそが、「相手の名前を呼んでから話しかける」という方法です。
「えっ?そんな簡単なことでいいの?」と思ったかもしれませんね。でも、この簡単なことが、クラスの人間関係をガラリと変えてしまう、ものすごい力を持っているのです。今回は、言葉のヒミツを研究する学問の力を借りながら、明日から学校で使える「名前のまほう」について、いっしょに見ていきましょう!
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「ねえねえ」と「〇〇くん、〇〇ちゃん」の大ちがい
まずは、学校生活でよくある、2つのちがう場面をイメージしてみてください。あなたが休み時間に、自由帳に大好きなイラストを描いているとします。とても集中していて、まわりの音があまり聞こえないくらいです。そこへ、友達がやってきました。
【パターンA】
友達:「ねえ、それ見せて!」
あなた:「えっ?(急に話しかけられて、ちょっとびっくりする)」
【パターンB】
友達:「〇〇ちゃん、それ見せて!」
あなた:「あ、うん、いいよ!(自分の名前を呼ばれて、なんだか自然に笑顔になる)」
どうでしょうか。言っている内容はどちらも「それ見せて!」ですが、受け取るあなたの気持ちは、パターンBの方がずっと優しくて、あたたかい気持ちになりませんか?
パターンAのように「ねえ」と言われると、人間は「だれに言っているのかな?」と一瞬まよってしまいます。また、急に自分の心の中に土足で入られたような、少しだけイヤな気持ち(警戒心)が生まれてしまうこともあるのです。
でも、パターンBのように、最初に自分の名前を「〇〇ちゃん」と呼んでもらえると、心の中に「トントン、入ってもいいですか?」と、優しくノックをされたような気持ちになります。だから、びっくりすることなく、安心して「いいよ!」と心のドアを開けることができるのです。
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言葉の裏にある「まほうの気持ち」(言葉の科学のおはなし)
なぜ、名前を呼ばれると、私たちはこんなにうれしい気持ちになるのでしょうか。実はこれには、大学の先生たちが研究している「社会言語学(しゃかいげんごがく)」や「語用論(ごようろん)」という、言葉の科学のヒミツがかくされています。
この学問では、「言葉そのものの意味」だけでなく、「その言葉を使うことで、人と人との関係がどう変わるか」を研究しています。その研究の中で、とても大切なルールが見つかりました。それは、「人間は、自分の名前を呼ばれると、『自分はここにいていいんだ』『大切にされているんだ』と安心する」というルールです。
専門の言葉では、これを「ポジティブ・ポライトネス(相手を歓迎する気づかい)」と呼びます。ちょっと難しい言葉ですが、かんたんに言うと「私はあなたと仲良くしたいですよ、あなたのことが大好きですよ、という気持ちを言葉で表すこと」です。
人間の脳は、たくさんの音がするにぎやかな教室の中でも、自分の名前だけはハッキリと聞き取れる不思議な力を持っています。名前を呼ぶということは、相手に対して「私は、クラスのその他大勢ではなく、いま、あなたという特別な友達に話しかけているんですよ」という、最高のプレゼントを届けているのと同じことなのです。
逆に、名前を一度も呼ばずに「ねえ」「あれ取って」「これやって」とばかり言っていると、相手は「自分はだれでもいいのかな」「ただのロボットみたいに使われているな」と感じてしまいます。これが、少しずつ「敵」をつくってしまう原因になるのです。
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学校生活で大活躍!名前を呼ぶ3つのタイミング
では、この「名前のまほう」を、学校生活のどんな場面で使えばいいのでしょうか。明日からすぐに使える、3つの大チャンスを紹介します!
① 朝のあいさつ:「おはよう」の前に名前をプラス
朝、教室に入ったとき、ただ「おはよう」と言うだけでも素敵ですが、ここに友達の名前をプラスしてみましょう。
- 「ゆうと君、おはよう!」
- 「さくらちゃん、おはよう!」
これだけで、言われた友達は「あ、朝一番に自分のことを見つけてくれた!」とうれしくなります。ただのあいさつが、一瞬で「あなたに会えてうれしい」というメッセージに変わるのです。これをされた友達は、その日一日、あなたのことを「大好きな友達」として見てくれるようになります。
② 係活動やお手伝い:「手伝って」の前に名前をプラス
クラスの係活動や、掃除の時間、先生に頼まれたお手伝いをするとき、一人では大変なことがありますよね。そんなとき、ただ「だれか手伝ってー!」と叫んでも、みんな「だれかがやるだろう」と思って、なかなか動いてくれません。ここでも名前のまほうを使いましょう。
- 「たくみ君、黒板消すの、いっしょに手伝ってくれる?」
- 「めいちゃん、このプリント配るの、半分お願いしてもいい?」
このように名前を呼んで頼まれると、言われた人は「あ、自分が必要とされているんだな」と感じます。人間は、人から頼りにされると、とてもうれしくなる生き物です。「しょうがないなあ、いいよ!」と、喜んで手伝ってくれる確率がグンと上がります。
③ 遊びのさそい:「遊ぼう」の前に名前をプラス
休み時間にドッジボールや鬼ごっこをするとき、グループの輪に入りたいけれど、ちょっと恥ずかしいなと思うことがありますよね。そんなときは、輪の中にいる友達の名前を呼んでみましょう。
- 「はると君、わたしも仲間に入れて!」
- 「ゆいちゃん、いっしょにドッジボールやろう!」
ただ「いれて」と言うよりも、名前を呼ぶことで、相手との距離が一気にちぢまります。呼ばれた相手も、あなたを仲間として受け入れやすくなり、クラスの「みんな」の中に、自然と溶け込むことができるようになります。
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「敵をつくらない」ための大事なルール
名前を呼ぶことはとても強力なまほうですが、使い方をまちがえると、逆に相手を嫌な気持ちにさせてしまうことがあります。言葉の科学(語用論)では、「相手がどう受け取るか」が一番大切だと考えます。次の2つのルールは、必ず守るようにしてくださいね。
相手が「呼ばれてうれしい名前」で呼ぶこと
人にはそれぞれ、呼ばれたい名前があります。「〇〇くん」「〇〇ちゃん」と呼ぶのが一番安心ですが、仲良くなると「あだ名」で呼びたくなることもありますよね。でも、あだ名を使うときは注意が必要です。
あなたが「おもしろい」と思ってつけたあだ名でも、言われた本人は「本当は嫌だな」「恥ずかしいな」と傷ついていることがあります。相手の顔が少しでも曇ったり、嫌そうな顔をしたりしたら、その呼び方はすぐにやめましょう。相手が「こう呼んでほしいな」と思っている名前で呼ぶことこそが、本当の優しさであり、敵をつくらない最大のルールです。
トゲトゲした声で名前を呼ばないこと
いくら名前を呼ぶのが良いことだと言っても、怒った声や、トゲトゲした声で呼んでは意味がありません。
「ちょっと、〇〇くん!」「〇〇ちゃん、早くしてよ!」
これでは、名前が「攻撃(こうげき)の武器」になってしまいます。名前を呼ぶときは、いつも「あなたのことが大好きだよ」という、温かいチョコレートのような気持ちを声にのせて、優しく呼ぶように意識してくださいね。
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明日からできる「名前の魔法」3ステップ
さあ、この「名前を呼ぶ」というまほう、頭では分かっていても、最初はちょっと恥ずかしいと感じるかもしれません。そこで、明日から学校で少しずつ練習できる、3つのステップを用意しました。まずはステップ1から、ゲーム感覚で挑戦してみましょう!
【ステップ1】心の中で名前を呼んでから、あいさつする
朝、友達を見つけたら、まずは心の中で「〇〇くん!」と叫びます。そのあと、口から「おはよう!」と声を出します。これだけでも、あなたの目線がしっかりと相手に向くため、気持ちの伝わり方が変わります。
【ステップ2】プリントを渡すときに、名前を呼ぶ
授業中、後ろの席の人にプリントを回すときや、係の仕事でノートを配るときがチャンスです。「はい、〇〇ちゃん」と、小さな声で名前をそえて渡してみましょう。相手は「あ、ありがとう!」と、いつもより笑顔で受け取ってくれるはずです。
【ステップ3】1日に3人、名前を呼んで話しかける
これができたら、あなたはもう「名前のまほう使い」です。毎日、違う友達の名前を3人、呼んで話しかけてみましょう。普段はあまり話さない友達の名前を呼んでみると、「あ、私の名前を知ってくれているんだ!」と、相手は飛び上がるほどうれしくなります。
名前は、世界にたった一つの、その人のためだけの特別な言葉です。その大切な名前を、あなたが優しく呼んであげること。それだけで、相手の心のドアはパッと開き、あなたを「大切な友達」として迎え入れてくれます。
さあ、明日の朝、あなたが一番最初に名前を呼ぶのは、だれですか?
ワクワクしながら、教室のドアを開けてみてくださいね!