第6章:小さな親切が「味方」を増やす
消しゴムを落としたら拾ってあげる
授業中、となりや前の席の友達が、うっかり消しゴムを落としてしまったとき。コロコロコロ…と自分の足もとまで転がってきたら、君ならどうしますか?
「あ、落としたな」と見ているだけでしょうか。それとも、先生のお話を聞くのに夢中で、気づかないふりをするでしょうか。
ここで、ほんの1秒でできる「あること」をするだけで、君のクラス生活は劇的に変わります。それは、すっと手をのばして消しゴムを拾い、「はい」と優しく渡してあげること。たったこれだけです。
「えっ、そんな小さなことで、クラスに敵がいなくなるの?」と思ったかもしれませんね。でも、本当なのです。この「小さな親切」には、相手の心を魔法のように変えてしまう、とても強い力がかくされています。
魔法のタネあかし:心が動く「へんほうせい」のひみつ
なぜ、落とした消しゴムを拾ってあげるだけで、君の味方が増えていくのでしょうか。そのひみつを解きあかすカギは、人間の心の仕組みを研究する「行動経済学(こうどうけいざいがく)」という学問にあります。
行動経済学では、人間にはとてもふしぎな「心のクセ」があることがわかっています。その代表的なものが、「返報性(へんほうせい)のルール」というものです。
ちょっとむずかしい言葉ですが、意味はとてもかんたんです。人は誰かから親切にされたり、プレゼントをもらったりすると、「自分も相手にお返しをしたい!」と強く思う生き物なのです。
たとえば、誕生日に友達からメッセージカードをもらったら、その友達の誕生日には「私もお祝いしてあげたいな」と思いますよね。班(はん)の友達からノートを貸してもらったら、「今度は自分が助けてあげよう」と思うはずです。これが「返報性のルール」です。
そして、このルールには素晴らしい特徴があります。それは、「最初にされた親切が、どんなに小さくても効果がある」ということです。
落とした消しゴムを拾ってもらった友達の心の中では、君に対する「心のお返しメーター」がパッとたまります。すると相手は、君に対して嫌な気持ちを持つことができなくなります。それどころか、「この人は自分に優しくしてくれた良い人だ」と心の中で認定してしまうのです。
敵をつくらない一番の近道は、自分を攻撃してくるかもしれない相手の心に、あらかじめ「親切のたね」をまいておくことなのです。
クラスでできる!「消しゴム拾い」から始まる3つのステップ
「消しゴムを拾うなんて、誰でもできるよ」と思うかもしれません。でも、本当の魔法使いになるためには、相手の心をあたたかくする「特別なコツ」があります。明日学校についたら、次の3つのステップでやってみましょう。
ステップ1:気づいたら「0.5秒」で動く
消しゴムが落ちた音「コツン」を聞いたら、誰よりも早く気づいて動きましょう。迷っていると、となりの人が拾ってしまうかもしれません。「あ、落とした」と思ったら、頭で考える前にすっと手を伸ばすのがコツです。スピードがあるほど、相手は「自分のことを見ていてくれたんだ」と嬉しくなります。
ステップ2:「笑顔で、黙って」渡す
消しゴムを拾ったら、授業のじゃまにならないように、ニコッとほほえみながら相手の机にそっと置きましょう。このとき、「拾ってあげたよ!」と大きな声でアピールする必要はありません。言葉はいりません。目と目が合ったら、にっこり笑うだけ。その「さりげなさ」が、すごくかっこよくて、相手の心に深くのこります。
ステップ3:お礼を言われたら「小声で、にっこり」
相手が「あ、ありがとう…」と小声で言ってきたら、君も小さくうなずくか、「いいよ」と笑顔で返しましょう。これだけで、二人だけの「小さな秘密の絆(きずな)」が生まれます。
消しゴムだけじゃない!学校生活の「小さな親切」チャンス
「返報性のルール」は、消しゴム以外でもクラスのあちこちで使えます。学校の中は、実は「親切のチャンス」でいっぱいなのです。日常のどんな場面で使えるか、見てみましょう。
- プリント配りのとき:一番後ろの席の人に渡すとき、「はいどうぞ」と向きをそろえて渡してあげる。
- 給食の時間のとき:となりの人の牛乳パックのストローが袋から出しにくそうなら、サッと取ってあげる。
- 掃除の時間のとき:友達が一人で重い机を運んでいたら、「いっしょに持とうか?」と手を貸す。
- 雨の日のあさ:下駄箱(げたばこ)で、友達の傘が倒れていたら、さりげなく立てかけてあげる。
- 休み時間の終わり:黒板消しの係じゃないけれど、チョークの粉がいっぱいたまっていたら、ササッとキレイにする。
どうですか?どれも、たった3秒から5秒でできることばかりですよね。でも、これを受けた友達や先生は、君のことを「クラスになくてはならない、大切な味方」として見はじめるようになります。
おうちでも実験!お母さん・お父さんへの魔法
この「返報性のルール」は、お家の中でもものすごい効果を発揮します。学校に行く前に、お家で「小さな実験」をしてみましょう。
たとえば、夕ごはんのあとに、自分のお皿をだまって台所まで運んでみてください。あるいは、家族みんなの靴を、下駄箱の前でそろえてみましょう。
お母さんやお父さんは、きっと驚いて「どうしたの?ありがとう!」と言ってくれるはずです。そして、いつもなら「宿題やったの!?」と少しきびしく言われる場面でも、なぜか優しく接してくれるようになります。
親切にされた人は、無意識のうちに「優しさでお返しをしなきゃ」という気持ちになるからです。お家で実験して成功したら、自信を持って学校でも使ってみましょう!
なぜこれで「敵」がいなくなるの?
ここで、少しだけ大人っぽい「敵を作らない仕組み」についてお話しします。
人間には、「自分に優しくしてくれた人を嫌いになるのは、すごく気持ちが悪い」という心の仕組み(認知のギャップ)があります。
もし、クラスにちょっとイジワルな人や、威張りたがりの人がいたとします。もし君がその人に対しても、落とした教科書を拾ってあげたり、ドアを開けて待ってあげたりしたらどうなるでしょう?
相手は、君にイジワルをしようとしても、頭の中で「でも、あいつは俺に親切にしてくれたな…」という思いがブレーキをかけます。その結果、君に対してだけは攻撃をしてこなくなるのです。
つまり、小さな親切をまき散らすことは、目に見えない「強力な心のバリア」を自分のまわりに張るのと同じことなのです。
明日から使える!魔法の「親切ハンター」になろう
明日、学校の門をくぐったら、君はクラスの「親切ハンター」です!
ゲームで宝探しをするように、クラスの中で「困っていること」や「落ちているもの」を探してみましょう。誰かの消しゴム、落ちた赤鉛筆、重そうな配り物、誰もやらない黒板消し……。
それを見つけたら、心の中で「ゲット!」とつぶやいて、サッと親切にしてみるのです。1日に1回でも成功すれば大成功!3回できたら、君はもう親切のプロフェッショナルです。
消しゴムを1回拾うたびに、君の周りから敵が一人消え、味方が一人増えていきます。明日、となりのお友達が消しゴムを落とすのが、ちょっと楽しみになってきませんか?
さあ、明日からの学校生活がもっと楽しくなる魔法を、君の手でためしてみましょう!