相手の様子に合わせて声の大きさを変える

📖 『クラスのみんなと仲良く過ごすための「敵をつくらない」10の魔法』
ー 第1章:あいさつは「心のドア」を開く鍵 ー
\ 毎日がもっと楽しくなる、すべての小学生へ贈るヒント /
相手の様子に合わせて声の大きさを変える
全 40 ページ中 4 ページ目

「大きな声であいさつ」が、いつも正しいとは限らない?

みんなは、先生や大人から「大きな声であいさつしましょう!」と言われたことはありませんか?もちろん、元気なあいさつはとても気持ちがいいものです。でも、実は「いつでも、どこでも、だれにでも大きな声」で話しかけることが、ときには相手を困らせてしまう原因になることもあるのです。

想像してみてください。君が図書室で静かに本を読んでいるとき、耳もとでいきなり「おはよう!!」と大声で叫ばれたらどうでしょう?びっくりして、せっかくの読書の時間が台なしになったような気がしませんか。あるいは、テストの前の休み時間に一生懸命ノートを見直しているとき、となりの席から大きな声であいさつをされたら、集中が切れてしまって「今はそっとしておいてよ……」と、少し嫌な気持ちになるかもしれません。

「敵をつくらない」ための第一歩は、相手の気持ちや状況を「想像」することです。あいさつは、相手の心のドアをトントンとたたく行為です。そのたたき方が強すぎると、相手は「攻撃された!」と感じて、心のドアに鍵をかけてしまいます。逆に、相手の様子に合わせてちょうどいい音でたたくことができれば、相手は「この人は僕のことをわかってくれているな」と安心して、笑顔でドアを開けてくれるのです。

言葉の「使い方」を決める、見えないルール

ここで、少しだけ難しいけれど、とても大切な「心の科学」のお話をしましょう。学者の世界では、これを「社会言語学(しゃかいげんごがく)」「語用論(ごようろん)」と呼んでいます。

これは簡単に言うと、「言葉そのものの意味よりも、その場の状況や相手との関係によって、伝わり方が変わる」というルールを研究する学問です。たとえば「いいですね」という言葉も、ニコニコしながら言えば「賛成!」という意味になりますが、怒った顔で言えば「勝手にすれば?」という反対の意味に聞こえてしまいますよね。

あいさつも同じです。「おはよう」という言葉の意味は一つですが、それをどんな声の大きさで、どんなタイミングで言うかによって、相手に伝わるメッセージは180度変わります。

  • 大きな声すぎる場合:「自分の存在を押しつけている」「相手の状況を無視している」というメッセージ。
  • ちょうどいい声の場合:「あなたのことを大切に思っています」「今のあなたの状況をわかっています」というメッセージ。

このように、声の大きさをコントロールすることは、相手への「思いやり」を形にすることそのものなのです。

「心のボリュームダイヤル」を使いこなそう

プロのラジオDJやテレビの司会者は、その場の空気に合わせて声のトーンや大きさを細かく変えています。みんなも、自分の中に「心のボリュームダイヤル」を持っているとイメージしてみましょう。このダイヤルを「0」から「5」まで使い分けるのが、クラスの人気者になる魔法のテクニックです。

  • レベル5:運動場や体育館の端っこにいる友達を呼ぶとき。
  • レベル4:クラスのみんなの前で発表するとき。
  • レベル3:休み時間に友達とふつうにおしゃべりするとき。
  • レベル2:授業中にとなりの席の友達と少しだけ相談するとき。
  • レベル1:耳もとでこっそり秘密話をするとき。

このダイヤルを、相手の「今の状態」に合わせてセットする練習をしてみましょう。明日からすぐに使える、3つの具体的なシーンを紹介します。

シーン1:朝の教室、まだエンジンがかかっていない友達へ

朝、教室に入ったときのみんなの様子をよく観察してみてください。朝から元気いっぱいに走り回っている子もいれば、まだ眠たそうに机に突っ伏している子、静かに連絡帳を書いている子もいますね。

もし、友達が少し眠たそうにしていたり、静かに作業をしていたりしたら、ボリュームダイヤルは「レベル2」にセットしましょう。
相手の目を見て、少しだけ首をかしげてにっこり笑いながら、「おはよう」と優しくささやくように言ってみてください。すると相手は、「あ、この人は僕の静かな時間を壊さないでいてくれた」と、無意識のうちに君に対して好感(こうかん)を持ちます。

逆に、友達が遠くから「おーい!」と手を振ってきたら、それはダイヤルを「レベル4」に上げる合図です。相手と同じくらいのエネルギーで返すことで、「仲良しだね!」という気持ちが通じ合います。相手のテンションに「合わせる」ことが、敵を作らないための高度な技術なのです。

シーン2:先生や係の仕事で忙しそうな人へ

学校では、だれかが「何かに集中している」場面がたくさんあります。

  • 先生が真剣な顔でプリントを数えているとき
  • 図書係の友達が、一生懸命に本を棚に戻しているとき
  • 給食当番の子が、こぼさないように慎重に配膳(はいぜん)しているとき

こんなときに、いきなり後ろから大きな声で「ねえねえ!おはよう!」と話しかけるのは、実はとても危ないことです。驚いてプリントをバラバラにしてしまったり、給食をこぼしてしまったりするかもしれません。

こういうときは、まず相手の視界(しかい)にそっと入ることから始めましょう。相手がこちらに気づいて、少し顔を上げたタイミングで、ボリュームダイヤルを「レベル2」にします。「おはよう。忙しそうだね、頑張って」と、短い言葉を添えるだけで十分です。

これは、社会言語学でいうところの「相手のテリトリー(個人的な空間)を尊重する」という行動です。相手の仕事や集中を邪魔しないあいさつができるようになると、周りの人から「あの子は大人だな」「気がきく子だな」と信頼されるようになります。

シーン3:おうちで、家族がリラックスしているとき

この魔法は、学校だけでなくおうちでも使えます。お父さんやお母さんがテレビを見ていたり、スマホで調べものをしていたり、あるいは疲れてぼーっとしていたりするとき。そんなときに、いきなり大きな声で「お腹すいた!」「ねえ聞いて!」と突撃(とつげき)していませんか?

家族だからといって、何をしてもいいわけではありません。家族こそ、一番近くにいる「大切な人」です。おうちでも、相手の顔色を見てボリュームを調節してみましょう。
「お母さん、今ちょっといい?」と、小さな声で「許可」をもらうワンクッションを入れるだけで、お母さんの反応は驚くほど優しくなるはずです。これも、語用論における「丁寧さの戦略」の一つなのです。

「声の大きさ」は「心の距離」のあらわれ

実は、声の大きさというのは、相手との「心の距離」を測るバロメーターでもあります。
遠くにいる人には大きな声を出しますが、すぐとなりにいる人に大声を出すのは、相手を突き飛ばしているのと同じです。逆に、となりにいるのに小さすぎる声でボソボソ言うと、「隠し事をしているのかな?」と不安にさせてしまいます。

「相手との物理的な距離」と「心の状況」の両方をかけ算して、ボリュームを決める。これができるようになると、君の周りからトゲトゲした空気が消えていきます。なぜなら、君の発する言葉が、常に相手にとって「心地よい音」になるからです。

明日からできる「聞き耳トレーニング」

いきなり完璧にボリュームを合わせるのは難しいかもしれません。そこで、明日の朝、学校に行ったら次のことを試してみてください。

まずは、自分からあいさつをする前に、3秒間だけ周りの音を聞いてみることです。
「今はクラス全体がガヤガヤしているかな?」「あの友達は一人で静かにしているかな?」と、耳を澄ませてみてください。そして、その場の空気の音量に、自分の声をそっと混ぜ合わせるようなイメージであいさつをしてみましょう。

もし、相手がびっくりしたような顔をしたら、「あ、今の声は少し大きすぎたかな」と反省すれば大丈夫。もし、相手が自然に笑顔で返してくれたら、それは君が「正解のボリューム」を選べた証拠です。

声の大きさを自由自在に操れるようになった君は、もう「言葉の魔法使い」です。相手を嫌な気持ちにさせず、自然とみんなが君の周りに集まってくる。そんな素敵な毎日が、明日の朝の「ちょうどいい音量のあいさつ」から始まります。

さあ、明日の朝、君の「心のボリュームダイヤル」はいくつにセットしますか?相手の笑顔を想像しながら、ワクワクして眠りにつきましょう。

📖 『クラスのみんなと仲良く過ごすための「敵をつくらない」10の魔法』
全 40 ページ中 4 ページ目

タイトルとURLをコピーしました