「それ、ちがうよ!」と言った瞬間、空気がひやりとする理由
クラスの話し合いで、こんな経験はありませんか?
たとえば、来週のお楽しみ会で何をするか決めているとき。友達が「みんなでドッジボールをやろうよ!」と提案しました。でも、きみは「折り紙で飾りつけをつくる工作」がやりたいと思っています。そんなとき、思わずこんな言葉が出てしまったことはないでしょうか。
「えー、ドッジボールはちがうと思う! きみの意見はおかしいよ」
言った本人は、ただ自分の考えを伝えただけのつもりです。意味としても「自分は別のことがやりたい」と言いたいだけですよね。ところが、それを言われた友達の顔を見てみてください。急に口をぐっと結んで黙り込んでしまったり、「なんだよ! お前だっていつも身勝手じゃないか!」と怒り出したりしてしまったことはありませんか?
教室の空気が急にひやりとして、なんだか気まずい雰囲気に……。相手を傷つけるつもりも、喧嘩をするつもりもなかったのに、どうしてこんなことになってしまうのでしょう。
実は、きみが悪気なく使った言葉の「形」の中に、相手を「敵」に変えてしまうおそろしい罠(わな)がかくれていたのです。
同じ意味なのに、なぜ怒られるの?〜ことばの「伝わりかたの科学」〜
ここで、少し大人の「頭がよくなるひみつ」をお教えしましょう。
言葉の研究には、「語用論(ごようろん)」という学問があります。少しむずかしい言葉ですが、意味はとてもシンプルです。語用論とは、「言葉そのものの意味だけでなく、どんな場面でどう使うと、相手にどう伝わるか」を科学する研究のことです。
語用論の世界では、言葉には「辞書にのっている意味」と「相手の心が受け取るメッセージ」の2つがあると考えます。
たとえば、「きみの考えはおかしいよ」という言葉を科学してみましょう。
- 辞書的な意味:あなたの意見と、私の意見は違っています。
- 心が受け取るメッセージ:「お前はダメなやつだ! お前が間違っている!」という攻撃。
驚くことに、言葉をそのまま受け取るのではなく、人の心は「誰が主語になっているか」を敏感(びんかん)にキャッチします。「きみは〜」「あなたは〜」と、相手を主語にして否定の言葉を使うと、相手の脳は「自分自身を攻撃された!」とパニックを起こしてしまうのです。
だから相手は、自分を守るために怒ったり、きみを「嫌なやつ(敵)」だと判定したりしてしまうわけですね。これが、言葉のふしぎな仕組みです。
敵をつくらない最強の魔法「わたし」を主語にする話しかた
では、どうすれば自分の意見をしっかり伝えつつ、相手を傷つけずに「敵」をつくらないでいられるのでしょうか?
ここで登場するのが、第3章の主役である「私はこう思うよ」と自分を主語にして話す魔法です。
英語でいうと、「You(あなた)」を主語にする話し方から、「I(わたし)」を主語にする話し方に変えるということです。専門用語ではこれを「アイ・メッセージ(I Message)」と呼びます。
やり方は驚くほどかんたんです。話し始めの言葉を、相手ではなく「わたし」にするだけです。
さきほどのドッジボールの場面で試してみましょう。
× 相手が主語(ユー・メッセージ):
「きみの意見はおかしいよ。ドッジボールは嫌だ。」(相手を否定しているように聞こえる)
◯ 自分が主語(アイ・メッセージ):
「わたしは、寒いのが苦手だから、教室でできる工作がいいなと思っているよ。」(自分の気持ちを伝えているだけ)
いかがですか? 言っている内容は「ドッジボールではなく工作がやりたい」ということで、まったく同じです。しかし、「わたし」を主語にすることで、相手の意見を否定する言葉から、「ただの自分の気持ちや希望」へと魔法のように変身したのです。
「わたしはこう思う」と言われた相手は、自分を否定されたわけではないので、怒る理由がありません。「そっか、きみは工作がやりたいんだね」と、きみの意見をすんなり聞いてくれるようになります。
学校の「あるある場面」で大実験!魔法の言いかえ図鑑
この魔法は、学校や家でのあらゆる場面で使うことができます。よくある日常のトラブルを、「わたし」が主語の言葉に変身させてみましょう!
場面1:給食や掃除の係活動で、友達がやってくれないとき
給食の配膳(はいぜん)の時間、台をふく係の友達が遊んでいて仕事をしていません。早くしないと、みんなの食べる時間がなくなってしまいます。
- あくまの言葉(You主語):「きみ、なんでサボってるの? はやく拭いてよ!」
→ 相手の反応:「なんだよ、命令するなよ!」と逆なでされ、ケンカになる。 - 魔法の言葉(I主語):「わたしは、みんなで早く給食を食べたいから、手伝ってもらえるとすごく助かるな!」
→ 相手の反応:「あ、ごめん! すぐやるよ」と素直に動き出す。
場面2:グループ学習で、違う意見が出たとき
総合の授業で、発表のポスターの色を決めるとき。友達が「絶対に黒がいい!」と言い出しました。きみはもっと明るい色がいいと思っています。
- あくまの言葉(You主語):「あなたのセンス、ヘンだよ。黒なんて暗すぎるよ。」
→ 相手の反応:バカにされたと感じて、心を閉ざしてしまう。 - 魔法の言葉(I主語):「わたしは、遠くからでも目立つように黄色や赤を使うのがいいかなって考えていたよ。」
→ 相手の反応:「なるほど、遠くから見やすくするためね。じゃあ文字だけ黒にする?」と話し合いが進む。
場面3:家でのお手伝いや、きょうだいとのゲームの順番争い
家で妹や弟がゲームを独り占めして、交代してくれません。あるいは、お風呂掃除の担当で揉めているとき。
- あくまの言葉(You主語):「お前、ズルいぞ! いつまでやってるんだよ!」
→ 相手の反応:「お兄ちゃん(お姉ちゃん)こそ、昨日ながくやってたじゃん!」と泥沼の言い争いに。 - 魔法の言葉(I主語):「わたしも、このあと宿題があるから、今交代してもらえるとすごく嬉しいな。」
→ 相手の反応:「そっかわかった。じゃあこのステージが終わったら交代ね」と納得しやすい。
明日からすぐできる!「わたし」主語の3つのステップ
「なるほど!」と思ったら、明日から学校でさっそく使ってみましょう。頭の中で次の「3つのステップ」を思い浮かべると、かんたんに魔法が使えます。
ステップ1:口を開く前に、心の中で「わたしは」とつぶやく
何か意見を言いたくなったら、いきなり言葉を出すのではなく、心の中で「わたしは……」と1秒だけ準備をします。これだけで、相手を「きみは!」と攻撃するのを防ぐことができます。
ステップ2:「事実」ではなく「自分の気持ち」をくっつける
「きみのやり方は間違っている」というのは、きみが決めた判断です。そうではなく、「わたしは、こうされると悲しい」「わたしは、こうしてもらえると嬉しい」という、きみの心の声(気持ち)をくっつけましょう。きみの気持ちに対して「そんなの嘘だ!」と怒る人はだれもいません。
ステップ3:語尾をやさしく「〜と思うよ」で着地させる
最後は、「〜だ!」「〜しろ!」と言い切るのではなく、「〜と思うな」「〜だといいな」「〜だと助かるよ」と、やわらかく着地させます。語尾をやさしくするだけで、言葉全体にふわっとした温かみが生まれます。
自分の意見をちゃんと言える人こそ、だれからも好かれる
「敵をつくらない」というと、「相手の言うことをなんでも『いいよ、いいよ』と聞くこと」だと勘違いしてしまう人がいます。
でも、それは大きな間違いです。自分のやりたいことや嫌なことをがまんして周りに合わせてばかりいると、自分の心が苦しくなってしまいますよね。それに、いつも自分の意見を言わない人は、クラスの話し合いでも頼りにされなくなってしまいます。
本当の意味で「敵をつくらない人」とは、自分の意見を我慢する人ではなく、相手を傷つけずに自分の意見を上手に伝えられる人のことです。
「わたしはこう思うよ」という魔法の言葉を使えば、きみは自分の気持ちをすなおに、堂々と伝えることができます。そして相手も、「この人は自分の意見を大切にしながら、僕のことも否定しない素敵な人だな」と感じて、きみのファンになっていきます。
明日、学校に行ったら、まずは班の話し合いや休み時間の雑談で、一回だけ「わたしはこう思うな」と使ってみてください。
相手がニコッと笑って、「そっか!」と話を聞いてくれる驚きの瞬間が、きっとあなたを待っていますよ!