悲しいときは信頼できる人に話す
休み時間、楽しみにしてドッジボールの列に並んでいたのに「あ、もう人数がいっぱいだからごめんね!」と言われて入れなかったとき。そうじ係で、自分だけ一生懸命ほうきをかけているのに、遊んでいるクラスメイトから「まだ終わらないの?」と言われてしまったとき。あるいは、家でお手伝いを頑張ったのに、小さな失敗を怒られてしまったとき。
胸の奥がキュッと小さくなって、なんだかツーンと鼻の奥が痛くなるような気持ち……君にも経験がありませんか?
そう、それが「悲しい(かなしい)」という気持ちです。
学校生活を送っていると、毎日楽しいことばかりではありません。悲しいこと、悔しいこと、傷つくことがたくさん起こります。そんなとき、君はどんな行動をとっていますか?
「男の子(女の子)だから泣いちゃダメだ」
「みんなに心配をかけたくないから、笑っておこう」
「言ってもどうせムダだから、がまんしよう」
こんな風に、悲しい気持ちを自分の心の中にギュッと閉じ込めて、一人で耐えてはいませんか?
実は、悲しい気持ちを一人で抱え込んでしまうことこそが、クラスでトラブルを引き起こし、知らないうちに「敵」をつくってしまう大きな原因になってしまうのです。
今回は、なぜ悲しい気持ちを抱え込むとトラブルになるのか、そして、どうして「誰かに話す」だけで心がすっきりしてクラスのみんなと仲良くなれるのか、あたまの中(脳)のフシギな仕組みといっしょに解き明かしていきましょう!
悲しみをがまんすると「あばれんぼうの怪獣」が目を覚ます!
「悲しい気持ちをがまんしているだけなのに、なんで敵ができちゃうの?」と、不思議に思うかもしれませんね。
その秘密は、みんなのあたまの中(脳)にあります。
私たちのあたまの中には、大きく分けてふたつの大切な部屋があります。
- 感情をつくる部屋(へんとうたい):ドカンと怒ったり、ビューンと悲しんだりする「あばれんぼうの怪獣」がいる場所。
- 考える部屋(ぜんとうよう):「今はどうするべきかな?」と冷静にブレーキをかける「ものしりハカセ」がいる場所。
休み時間に仲間外れにされたり、係の仕事で嫌なことを言われたりしたとき、あたまの中では「あばれんぼうの怪獣」が大暴れを始めます。「悲しいよー! 悔しいよー!」と大きな声で泣き叫んでいる状態です。
このとき、悲しい気持ちを誰にも言わずに心の奥に閉じ込めようとすると、あばれんぼうの怪獣は、部屋の中でどんどん暴れて、パワーをため込んでしまいます。
すると、不思議なことが起こります。悲しかったはずの気持ちが、いつの間にか「イライラ」や「怒り」に変身してしまうのです!
あたまの中がイライラでいっぱいになると、冷静な「ものしりハカセ」は気絶してしまいます。ブレーキが効かなくなった君は、こんな行動をとってしまうかもしれません。
- 友達が話しかけてくれたのに、「べつに!」と冷たい声で返してしまう。
- 授業中、消しゴムを机にバシバシと強く叩きつけてしまう。
- 本当は悪気がない友達に対して、「なんでそんなこと言うの!」と強く怒鳴ってしまう。
周りのクラスメイトから見ると、君がどうして怒っているのか分かりません。「急に怒り出した」「なんだか話しかけにくいな」「僕たちのことが嫌いなのかな」と思われてしまいます。こうして、君が本当は傷ついていただけなのに、気づかないうちに周りに「敵」をつくってしまうのです。とってももったいないですよね。
言葉で話すと「ものしりハカセ」がブレーキをかけてくれる
では、あばれんぼうの怪獣が大暴れして、敵をつくってしまうのを防ぐにはどうすればいいのでしょうか?
その一番の解決策が、今日の魔法「信頼できる人に話す」ことです!
「話すだけで、本当に心が落ち着くの?」と思うかもしれません。でも、これも脳科学でちゃんと証明されている「魔法」なのです。
自分の心の中にある悲しい気持ちを、言葉にして誰かに話そうとするとき、あたまの中では「ものしりハカセ」が緊急発信をします。「えーっと、どんな言葉で説明すれば伝わるかな?」「あそこで言われたことが悲しかったんだな」と、あたまを使って整理し始めるのです。
言葉を探して話している瞬間、脳の主役が「あばれんぼうの怪獣」から「ものしりハカセ」へとバトンタッチされます。すると、ハカセがギュッと強いブレーキをかけてくれて、暴れていた怪獣が「あ、すこし落ち着こう」とおとなしくなるのです。
さらに、信頼できる人に「実はね、さっきこんなことがあって悲しかったんだ」と話して、相手が「それは悲しかったね」「大変だったね」と話を聞いてくれたとします。
その瞬間、みんなの脳の中からは「オキシトシン」という“あんしんのパワー”が溢れ出します!
このあんしんのパワーが出ると、ドキドキしていた胸がスッと軽くなり、ツーンとしていた鼻の奥の痛みが消えていきます。「自分の気持ちを分かってくれる人がいるんだ」と思えるだけで、心の中に温かいお守りができるのです。
「しんらいできる人」ってどんな人?
ここでとても大切なポイントがあります。それは、「誰に話すか」ということです。
悲しい気持ちを打ち明ける相手は、誰でもいいわけではありません。もし、みんなの話をバカにしたり、「そんなことで悲しむなよ!」と笑ったりする人に話してしまうと、余計に傷ついて怪獣がさらに暴れてしまいます。
君にとっての「信頼できる人」を、日ごろから探しておきましょう。例えば、こんな人たちです。
- おうちの人(おとうさん、おかあさん、おじいちゃん、おばあちゃん):君のことを一番近くで見守ってくれて、味方になってくれる人。
- 学校の先生(担任の先生、保健室の先生、学童の先生):学校でのトラブルをよく知っていて、どうすればいいか一緒に考えてくれるプロ。
- 話を聞いてくれる友達:自慢話をせず、君が困っているときに「どうしたの?」と優しく顔を覗き込んでくれる友達。
「友達に話すと、重い気持ちにさせちゃうかな……」と心配になる人は、まずはおうちの人や保健室の先生に話してみるのがおすすめです。大人は、君たちの心を守るための経験をたくさん持っているからです。
明日からできる! 悲しみをスッキリ伝える「3つのステップ」
「悲しい気持ちを話したほうがいいのは分かったけれど、なんて話しかければいいか分からない…」
そんな君のために、明日からすぐに使える「悲しみを伝える3つのステップ」を伝授します!
ステップ1:自分の「ツーン」を見逃さない
学校で嫌なことがあったとき、胸がモヤモヤしたり、ツーンとしたりしたら、「あ、今自分は悲しんでいるな」と自分で自分の気持ちに気づいてあげましょう。「がまんしなきゃ!」と打ち消すのではなく、「悲しいと思っていいんだよ」と心の中で自分に言ってあげます。
ステップ2:「ちょっと聞いてほしいな」と声をかける
信頼できる人を見つけたら、こう声をかけてみましょう。
「ちょっと話を聞いてほしいんだけど、いま時間ある?」
最初にこう伝えることで、相手も「大切な話なんだな」と心の準備をして、集中して君の話を聞いてくれるようになります。
ステップ3:「あったこと」と「気持ち」をセットで話す
上手な作文のように話す必要はまったくありません。下手でも、途中でお話がからまっても大丈夫。大切なのは、次のふたつをセットで話すことです。
- あったこと(出来事):「今日、掃除の時間に〇〇さんに『遅い』って言われたんだ」
- 気持ち(心の中):「一生懸命やっていたから、すごく悲しかったんだ」
「あったこと」だけでなく、「どう感じたか(気持ち)」を言葉にすることで、脳の「ものしりハカセ」がフル回転し、あばれんぼうの怪獣がどんどん小さくなっていきます。
どうしても誰にも話せないときの「ひみつの魔法」
「どうしても恥ずかしくて人に話せない…」
「周りに誰も頼れる人がいない気がする…」
そんな日もあるかもしれません。そんなときに使える、脳科学的に効果バツグンの「ひみつの魔法」を教えます。
それは、「ノートに全部書き出す」ことです!
お家にある自由帳やノートに、今日あった悲しかったこと、悔しかったこと、黒い気持ちを、思いつくままに鉛筆で書きぐっちゃってみてください。「あいつバカヤロー!」「すごく悲しかった!」「もう嫌だ!」なんでも構いません。
手を使って文字を書くという行動も、あたまの中の「ものしりハカセ」を動かす強い刺激になります。自分の手で書いた文字を自分の目で見ることで、脳は「あ、自分はこんなに悲しかったんだな」と客観的に理解し、気持ちを整理することができるのです。
書き終わったら、そのページを破ってクシャクシャに丸めて、ゴミ箱にポイッと捨ててしまいましょう! 心の中の悲しい気持ちも、一緒にゴミ箱に捨てられたようなスッキリ感が味わえますよ。
自分の「弱さ」を見せられる人は、いちばん強くて愛される
「悲しい」と誰かに伝えることは、決して「弱虫」ではありません。
むしろ、自分の悲しい気持ちをごまかさずに受け止め、信頼できる人に「助けて」「話を聞いて」と言える人は、脳を自分でコントロールできるとても知的で、強い人です。
素直に「さっきは心が傷ついちゃったんだ」と言える人は、周りからも「素直な人だな」「嘘をつかない信頼できる人だな」と思われます。
悲しい気持ちを隠してイライラを振りまく人は周りに「敵」を作りますが、自分の悲しさを素直に話せる人の周りには、「守ってあげたい」「力になってあげたい」という「味方」がたくさん集まってくるのです。
今日、もし学校や家で胸がツーンとするような悲しいことがあったら、一人で抱え込まずに、信頼できる誰かに「聞いてほしいな」と話しかけてみてください。
話終わったあと、あたまの中がすっきりと晴れ渡り、明日学校へ行くのがすこし楽しみになっている自分に気づくはずですよ!