無理をしてまでグループに合わせない
学校生活の中で、こんなふうに悩んだことはありませんか?
- 「本当は外でドッジボールをしたいけれど、みんなが教室でおしゃべりしているから、なんとなく合わせている……」
- 「本当はあの本が面白いと思うのに、クラスの人気者が『あれ面白くないよね』と言ったから、うなずいてしまった……」
- 「仲良しグループの意見に反対すると、仲間外れにされそうで怖い……」
まわりの空気を読んで、みんなと同じように行動する。それは、クラスの平和を保つための思いやりでもあります。でも、そのせいで自分の心がいっぱいいっぱいになっていたり、「なんだか疲れたな」と感じたりしていませんか?
実は、だれとでも仲よくなるための最後の10個目の魔法、そして一番たいせつな魔法は、「無理をしてまでグループに合わせない」ということです。
「えっ、合わせないと嫌われちゃうんじゃないの?」と思ったあなたにこそ、これからお話しする文化人類学(ぶんかじんるいがく)のふしぎな実験と、自分をたいせつにするための秘密のルールを伝えたいと思います。
文化人類学で見えた「みんなと同じ」の正体
世界中の人間がどんなふうに暮らしているのかを研究する学問を、「文化人類学(ぶんかじんるいがく)」といいます。
文化人類学の研究者たちは、世界中のいろいろな村や町に行って、人々がどうやって仲よく暮らしているのかを調べてきました。そこでわかった、人間のとてもおもしろい習性があります。
それは、「人間は、自分のいるグループのルールや考え方に、無意識(むいしき:気がつかないうち)に合わせてしまう生き物である」ということです。
例えば、遠い昔の人間は、グループからはみ出してしまうと、1人では猛獣(もうじゅう)から身を守れず、ごはんも食べられなくて、生きていくことができませんでした。だから私たちの脳には、「みんなと同じようにしていれば安心」「違うことをすると危険だ」というプログラムが深く刻み込まれているのです。
クラスのグループで、「絶対にこのアニメが好きじゃなきゃダメ」「このブランドの文房具しか使っちゃいけない」というような、見えないルール(同調圧力:どうちょうあつりょく、と言います)が生まれるのは、この昔からの脳の仕組みが原因です。
つまり、「みんなに合わせなきゃいけない気がする」のは、あなたが弱いからでも、意地悪だからでもありません。人間ならだれもが持っている、自然な本能なのです。
でも、安心してください。文化人類学のもう一つの大きな発見があります。それは、「本当に強い文化や、すてきな社会は、一人ひとりが『自分らしさ』を持っているからこそ成り立っている」ということです。
みんながロボットのように同じことばかりを考えているグループよりも、いろいろな意見や「これが好き!」という個性を持った人たちが集まっているグループのほうが、実はトラブルが少なく、長く続くことがわかっています。
「いい子」をやめると、本当の友達が見つかる
では、学校のクラスという小さな社会の中で、文化人類学の知恵を使って「無理をしない自分」になるには、どうすればいいのでしょうか?
具体的な3つのステップを見ていきましょう。
ステップ1:心のなかの「本当の気持ち」をキャッチする
まずは、自分のお腹の底にある気持ちに気づく練習です。グループの意見を聞いたとき、自分の心にこんな質問をしてみてください。
- 「本当は、私はどうしたいかな?」
- 「もし、まわりに誰も見ていなかったとしたら、私はこれを選びたいかな?」
例えば、給食の時間を考えてみましょう。みんなが「今日の牛乳、残そうよ」と言っているとします。あなたは本当はおいしく飲みたいのに、「残さないと変な目で見られるかな……」と思って一緒に残していませんか?
そんなとき、心の中で「私はおいしく飲みたいんだな」と、自分の気持ちを自分で認めてあげること。それだけで、自分をたいせつにする第一歩になります。
ステップ2:「合わせる」と「ガマンする」を区別する
「じゃあ、明日から自分の意見だけを言って、まわりを無視すればいいんだ!」と思ったかもしれませんが、それは少し違います。
文化人類学で言う「みんなと仲よく暮らす知恵」には、「ゆずり合い」が含まれています。ここで、「合わせる」と「ガマンする」の違いを考えてみましょう。
-
【合わせる(すてきなこと)】
- 今日はみんながドッジボールをしたいと言っているから、私も本当は鬼ごっこがしたかったけれど、みんなに合わせて楽しくドッジボールに参加する。(今日はドッジボールを楽しもう!と自分で決めている)
- 本当はドッジボールが嫌いで、ボールが当たると痛いし怖いのに、「いやだ」と言ったら嫌われるから、泣きそうになりながら、ずっと隅っこで立っている。
【ガマンする(自分をいじめていること)】
大きな違いがわかりましたか?
前者は「自分で選んで合わせている(思いやり)」ですが、後者は「自分の心を傷つけてまで合わせている(無理)」です。
明日からは、「私の心、泣いていないかな?」と自分に聞いてみてください。泣いているなら、それは「無理をしているサイン」です。
ステップ3:小さな「違う意見」を勇気を出して言ってみる
無理をしないために、少しずつ練習してみましょう。まずは、意見が分かれても全く困らない小さなことからスタートします。
- 係のポスターの色を決めるとき、「ピンクもいいけど、見やすいように青にしない?」と言ってみる。
- 図書室で借りる本を相談されたとき、「みんなは恐竜の本が好きだけど、私は動物の本が読みたいな」とニコニコしながら伝えてみる。
ここで大切なのは、「相手の意見を否定せず、自分の意見も伝える」ということです。「私はこっちがいいな!」と明るく言うだけで、まわりは「あ、この子はこういうのが好きなんだな」と自然に受け入れてくれます。
もし、自分の意見を言ったときに「えー、そっち?」と言われたとしても、落ち込む必要はありません。それは相手がびっくりしただけで、あなたを嫌いになったわけではないからです。
自分を好きになることが、だれとでも仲よくなる一番の近道
この本(『だれとでも仲よくなれる!「好かれる子」になるための10の魔法』)のテーマは、文字通り「だれとでも仲よくなること」です。
でも、本当の「好かれる子」とは、八方美人(はっぽうびじん:だれにでもいい顔をして、自分の意見がない人)のことではありません。
本当の意味で人に好かれ、信頼される人は、「自分をたいせつにできる人」です。
自分をたいせつにできる人は、自分と違う意見を持っている友達のことも、「そういう考え方もあるんだね」と、心から尊重(そんちょう:たいせつに)することができます。自分が無理をしていないからこそ、友達にやさしくできる心のゆとりが生まれるのです。
クラスのグループは、あなたがあなたらしく生きるための場所です。だれかの顔色ばかりをうかがって、小さくなっている必要はありません。
あなたはあなた。あなたの「好き」や「こうしたい」という気持ちは、世界にひとつしかない、とても大切な宝物です。
明日、学校に行ったら、まずは自分の心にこう聞いてあげてください。
「今日の私は、無理をしていないかな? 私の気持ち、ちゃんと聞いてあげられているかな?」
あなたがあなたを一番の味方にしてあげたとき、まわりの世界はもっともっと優しく、楽しく輝きはじめますよ。