第10章:自分を大切にする
クラスの係を決める時間や、グループで遊ぶとき、こんなふうに思っていませんか?
- 「みんなが黒板係がいいって言っているから、私もそれに合わせよう…」
- 「本当はドッジボールがしたいけど、友達が鬼ごっこをしたいって言うから、我慢しよう…」
- 「自分の意見を言って、みんなから変だと思われるのがこわいな…」
まわりの空気を読んで、みんなに合わせることは、とてもやさしい行動です。お友達の気持ちを考えられるのは、あなたの素晴らしい良さです。でも、いつも自分の本当の気持ちをかくしてばかりいると、なんだかモヤモヤしてきませんか?
この章のテーマは「自分を大切にする」です。そして、自分を大切にするための一番たいせつな魔法が、「自分の意見をはっきり言葉にする」ことなのです。
「でも、どうやって自分の意見を言えばいいの?」
「わがままって思われないかな?」
だいじょうぶ!きょうは、世界中の人間を研究する学問「文化人類学(ぶんかじんるいがく)」の知恵をかりながら、みんながもっとラクに、そしてもっとすてきに自分の気持ちを伝える方法を探検してみましょう。明日からすぐに学校で試せるヒントが、たくさんつまっていますよ!
文化人類学の魔法!「ちがい」は世界の宝物
世界には、いろいろな国や地域があって、びっくりするほどたくさんの人たちが暮らしていますよね。文化人類学というお勉強は、世界中のいろんなグループの人たちのくらしや考え方を調べて、「人間ってなんだろう?」を考える学問です。
文化人類学の研究ですごく面白いことが分かっています。それは、「世界にまったく同じ人間なんて一人もいない」ということです。
住んでいる場所、好きな食べ物、考えていること、ものの見方。みんな「ちがって当たり前」なのです。これを文化人類学の言葉で「多様性(たようせい)」と言います。かんたんに言うと、「みんなちがって、みんないい」ということです。
クラスを一つの「小さな世界」として見てみましょう。もし、クラスの全員が、何を聞いても「なんでもいいよ」「みんなと同じでいいよ」と言っていたら、どうなるでしょうか?
新しいアイデアも生まれないし、みんなが本当はどう思っているのか分からなくて、逆にロボットみたいでちょっとこわくないですか?
文化人類学では、「一人ひとりが自分の考えを表現し、ちがいを認め合うことによって、そのグループが元気になり、長持ちする」と考えます。つまり、あなたがあなたの意見を言うことは、わがままではなく、「クラスという小さな世界を、もっと楽しくするために必要なピース(パーツ)」なのです。
あなたが「私はこう思う!」と声を出すことで、クラスに新しい風が吹きます。自分の意見を言うことは、自分を大切にすると同時に、周りのみんなにとってもすてきなプレゼントになるのですよ。
「みんな」の魔法にとらわれていない?
学校生活で、こんな言葉をよく耳にしませんか?
- 「みんな言ってるよ」
- 「ふつうはこうするでしょ」
- 「空気を読んでよ」
この「みんな」や「ふつう」という言葉、なんだかとても強力ですよね。これを聞くと、「自分だけちがったらどうしよう」と不安になってしまいます。
でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。その「みんな」って、具体的に何人のことですか?クラスの全員ですか?それとも、近くにいる2、3人のお友達ですか?
実は、「みんな」という言葉は、自分の意見に自信がないときや、周りに合わせたいときに、私たちの頭の中で勝手に大きくしてしまう「まぼろし」であることが多いのです。
文化人類学の視点で見ると、人間は、自分が属しているグループ(学校やクラス)のルールや雰囲気にとても影響されやすい生き物です。これを「文化の力」と言います。私たちは生まれてからずっと、周りの大人や友達の真似をしながら言葉やマナーを覚えてきたので、「周りと合わせなきゃいけないんだ」というセンサーが自然とピピッと働くようになっているのです。
それは生きるためにとても大切な力ですが、そのセンサーが強すぎると、「自分の本当の気持ち」が見えなくなってしまいます。
「私は本当はどうしたいんだっけ?」
そうやって、自分の心に聞いてあげる時間を作ること。それが、自分を大切にする第一歩なのです。
自分の意見を言葉にする3つのステップ
「自分の意見を言うぞ!」と意気込んでも、いきなり大きな声で「私はこう思います!」と言うのはドキドキしますよね。心臓がバクバクして、声が震えてしまうかもしれません。
そこで、明日から学校でできる「自分の意見をはっきり言葉にする3つのステップ」を紹介します。ゲームのステージをクリアするように、順番にやってみましょう!
ステップ1:心の中で「私の本音」をつかまえる
何かを決めるとき、まずは自分の心に小さなライトを当ててみましょう。
- ノートの色、本当は青がすきなのに、みんながピンクだからってピンクを選んでいないかな?
- 係の希望、本当は図書係がやりたいのに、「人気だからはずかしい」ってかくしていないかな?
声に出さなくてもいいので、まずは自分の心の中で、「私は本当はこう思っているんだな」と気づいてあげること。これがすべてのスタートです。自分の本音に気づいてあげられたら、それだけで自分を大切にできたことになります。
ステップ2:「I(アイ)メッセージ」で伝える
いざ意見を言うとき、「こうするべきだ!」「絶対こっちの方がいいよ!」と強く言いすぎると、お友達とケンカになってしまうかもしれません。そこでおすすめなのが、心理学や文化人類学のコミュニケーションでも使われる「I(アイ)メッセージ」です。
「アイ」とは、英語の「I(私)」のことです。
- 「私は、こっちのアイデアのほうが、みんなで協力しやすくていいと思うな」
- 「私は、今日のレクリエーションは鬼ごっこよりドッジボールがしたいな」
「あなた」ではなく「私」を主語にして話すと、「私はこう感じているよ」という個人的な気持ちとして相手に伝わります。だから、相手をせめているような感じがしなくて、すんなりと受け入れてもらいやすくなるのです。
ステップ3:ちがいを面白がる
勇気を出して自分の意見を言ったとき、お友達から「えー、私は別の意見だな」と言われることがあるかもしれません。そんなとき、ドキッとして「あ、やっぱり言わなきゃよかった…」と落ち込まないでください!
ここで思い出してほしいのが、さきほどの文化人類学の教え、「ちがいは世界の宝物」です。
「そっか!〇〇ちゃんはそう考えるんだ。私はこう思ったけど、その見方も面白いね!」
そうやって、自分とはちがう意見を聞いたときに「へえ、面白い!」と面白がることができたら、あなたはもう「好かれる子」のマスターレベルです。お互いの意見を尊重し合える関係は、クラスを最高に居心地の良い場所に変えてくれます。
おうちでもやってみよう!家族会議の作戦
学校で練習する前に、まずはいつも優しい家族の前で練習してみるのもおすすめです。夕ご飯のときや、お出かけの行き先を決めるとき、こんなふうに自分の意見を言ってみましょう。
「今日の夜ご飯、カレーもハンバーグも大好きだけど、私は今日はハンバーグの気分だな!」
「今度の休日は、動物園に行きたいな。なぜなら、新しく生まれた赤ちゃん動物が見たいからなんだ!」
理由(なぜなら〜)をちょっとだけ添えてあげると、家族みんなが「なるほどね!」と納得してくれます。おうちの人たちは、あなたが自分の言葉でしっかり気持ちを伝えてくれると、「うちの子、すっかりお兄ちゃん(お姉ちゃん)になったな!」と、とっても嬉しくなるものですよ。
自分を好きになることは、まわりを好きになること
自分の意見をはっきり言葉にするのは、最初は少し勇気がいります。「変に思われたらどうしよう」「嫌われたらどうしよう」という不安が消えない日もあるでしょう。
でも、思い出してください。あなたの心の中にある気持ちや意見は、世界にたった一つしかない、あなただけの宝物です。それをずっとかくしたままにしていると、宝物にホコリがかぶってしまいます。
小さなことでもいいのです。
- 給食のおかわり、本当はもう一個食べたいから手を挙げる。
- 班のポスター作りで、「ここにイラストを入れたらかわいいと思う!」と提案してみる。
- 友達に「その消しゴム、すごく使いやすそうだね、どこで買ったの?」と自分の興味を素直に言葉にする。
自分の気持ちを大切にして、自分の言葉で外の世界に表現していくと、不思議と自分のことがもっと好きになります。そして、自分を大切にできるようになると、お友達が持っている「ちがい」や「個性」のことも、同じくらい大切にできるようになるのです。
明日、学校の門をくぐるとき、心の中でこうつぶやいてみてください。
「今日の私は、私の気持ちをたいせつにするぞ。どんな意見が飛び出すか、楽しみだな!」
あなたのその小さな一歩が、あなたとクラスのみんなの毎日を、もっともっと輝かせる最高の魔法になりますよ。