他人の成功を心から喜ぶ
図工の授業で、となりの席の友達の絵だけに「金賞」のシールが貼られたとき。給食の最後の一つのプリンをかけたジャンケンで、班の友達が勝ったとき。クラスの体育の授業で、ライバルの子がサッカーの見事なシュートを決めて、みんなから「かっこいい!」と大歓声があがったとき——。
あなたの心の中には、どんな気持ちが浮かびますか?
「すごいね!」と素直に拍手を送れましたか? それとも、喉の奥がキュッと狭くなるような、胸のあたりが少しモヤモヤするような、「なんであいつばかり……」「ずるいな」という悔しい気持ちがこみあげてきたでしょうか。
もし後者だったとしても、安心してください。自分を責める必要はまったくありません。なぜなら、自分以外の誰かがうまくいったときに、心がチクッと痛むのは、人間としてとても自然な反応だからです。
ですが、ここでひとつ、クラスでいちばん愛されている子たちが使っている「秘密の魔法」をお教えしましょう。
実は、他人の成功を心から喜べるようになると、あなたのクラスでの人気は一気に跳ね上がります。それだけでなく、あなた自身の成績やスポーツの記録まで、ぐんぐん伸びていくようになるのです。「人の成功を喜ぶだけで、自分が得をするの?」と不思議に思うかもしれませんね。これには、人間のかんがえ方や行動の仕組みを研究する「行動学(こうどうがく)」や「行動経済学(こうどうけいざいがく)」という学問で、しっかり証明されている科学的な理由があるのです。
さあ、他人の成功を心から喜べる「心の持ち方」を手に入れて、クラスでだれからも応援される人気者になる方法を、いっしょに紐解いていきましょう!
1. 「ずるい!」と感じる心のトラップ(罠)
まず、どうして私たちは友達の成功を見たときに、素直に喜べず「ずるいな」と思ってしまうのでしょうか。これには、人間の心が落ちいりやすい「ゼロサム思考(しこう)」という罠(わな)が関係しています。
「ゼロサム」とは、簡単にいうと「だれかが得をすると、その分、自分が損をする」という思い込みのことです。
たとえば、目の前にホールケーキが一つあるとします。友達が大きなカットのケーキを取ってしまうと、あなたの食べるケーキは小さくなってしまいますよね。これが「ゼロサム」の世界です。
私たちは無意識のうちに、学校生活のあらゆる場面を、この「ケーキの奪い合い」のように考えてしまいがちです。
- 「友達が先生にほめられた」=自分のほめられる分が減ってしまった!
- 「ライバルがテストで100点をとった」=自分が負けて損をした!
- 「友達に新しい友達が増えて仲良くしている」=自分と遊んでくれる時間が減って損をした!
どうでしょうか? 心あたりはありませんか?
でも、よく考えてみてください。学校での「拍手」や「褒め言葉」、そして「しあわせな気持ち」は、ケーキのように数が決まっているものでしょうか? 決して違いますよね。友達が100点をとっても、あなたのテストの点数が下がるわけではありません。友達が先生に「そうじが上手だね」とほめられても、あなたの中にある良いところが消えてなくなるわけではないのです。
「人の成功は、自分から何かを奪っていくものではない」という真実に気づくこと。これが、心の罠から抜け出す第一歩です。
2. 行動学が教えてくれる「拍手を送ると得をする」理由
行動学や行動経済学の研究では、他人の成功を喜ぶ人が「結果的にいちばん大きな得をする」という面白い事実がわかっています。理由は大きく分けて3つあります。
①「返報性(へんほうせい)の法則」がはたらくから
人間には、「親切にされたら、親切を返したくなる」「いじわるをされたら、遠ざかりたくなる」という強い心理メカニズムがあります。これを心理学や行動学で「返報性(へんほうせい)の法則」と呼びます。
友達の成功に対して、笑顔で「おめでとう!」「すごいね!」と心から拍手を送れる人は、クラス中に「あなたの味方だよ」というサインを出し続けているのと同じです。すると、今度はあなたがリレーの選手に選ばれたときや、係の仕事で大活躍したときに、クラスのみんなが自分のことのように大歓声をあげて応援してくれるようになります。
逆に、友達の成功に知らん顔をしたり、いじわるな事を言ったりする人は、自分が頑張ったときにも誰からも応援してもらえなくなってしまいます。
②「ピア効果(仲間からのプラスの影響)」を100%受け取れるから
行動経済学には「ピア効果(Peer Effect)」という言葉があります。「ピア」とは「仲間」という意味です。人間は、身近にいる仲間の行動や成果に、想像以上に強い影響を受けるというルールです。
友達が逆上がりに成功したとき、「うわぁ、すごい! どうやってやったの?」と心から喜んで駆け寄る子は、友達から「足の振り上げ方をこうするんだよ」とコツを教えてもらうことができます。つまり、友達の成功を喜ぶことで、自分の能力までレベルアップさせるチャンス(プラスのピア効果)を手にできるのです。
「あいつばっかりずるい」と遠くから睨んでいる子は、せっかくの「レベルアップのチャンス」を自分からドブに捨ててしまっていることになります。非常にもったいないですよね。
③ 脳は「他人の成功」と「自分の成功」の区別が苦手だから
人間の脳には、面白い特徴があります。自分が心から笑顔になり、大きな拍手をしながら「やったね!」「すごい!」と叫んでいるとき、脳は「いま、自分自身がすごくおめでたい最高な状態なんだ!」と勘違いをするのです。
他人の成功を心から喜ぶ習慣がある人は、脳の中にいつも「自分は成功している」「幸せだ」というプラスのエネルギーが満ちあふれるようになります。その結果、自信に満ちた明るい表情になり、自然とクラスの「愛されキャラ」になっていくのです。
3. 明日からできる!「拍手マスター」になる3つの具体策
それでは、具体的に学校生活の中で、どのように行動すればいいのでしょうか? 誰でも今日から実践できる、3つの「コミュニケーション・ルール」を紹介します。
【ルール1】友達が褒められたら「0.5秒」で拍手をする
心がもやもやする暇を与えないための、一番強力なテクニック。それが「0.5秒の即効(そっこう)拍手」です。
帰りの会で、先生が「今日、〇〇さんが一人で下駄箱の掃除をしてくれました。素晴らしいですね」と言ったとします。その瞬間、頭で「なんで〇〇さんだけ……」と考え始める前に、パチパチパチ!と一番に手を叩いてしまうのです。
「行動」が先で、「心」は後からついてきます。先に手を叩いて「すごい!」と口に出してしまうと、脳は「あ、自分は今、〇〇さんの成功を喜んでいるんだな」と認識し、不思議ともやもやした気持ちが消えていきます。クラスで真っ先に拍手ができる子は、先生からもクラスメイトからも「心の温かい、素敵な子だな」と一目置かれるようになります。
【ルール2】「すごいね+質問」をセットで伝える
友達が何かで成功したとき、ただ「おめでとう」と言うだけでなく、「すごいね! + どうやったの?」と質問を付け足してみましょう。
- 【漢字テストで満点をとった友達に】
「満点すごいね! いつもどうやって勉強してるの?」 - 【体育の縄跳びで二重跳びがたくさん跳べた友達に】
「かっこいいね! コツがあったら教えて!」 - 【図工で素敵な絵を描いた友達に】
「この色の組み合わせ、すごく綺麗! どこから思いついたの?」
人は誰でも、自分の努力や成果を認められ、興味を持ってもらえると飛び上がるほど嬉しいものです。質問をされた友達は「自分の頑張りを見てくれていたんだ!」と感じて、あなたに対して強い信頼と親しみを持つようになります。
さらに、あなた自身も「成功のコツ」を教えてもらえるので、まさに一石二鳥のテクニックです。
【ルール3】「家のお手伝い」でも成功を喜ぶ練習をする
この習慣は、学校だけでなく「おうち」でも練習ができます。
お兄ちゃんやお姉ちゃん、あるいは弟や妹が、お父さん・お母さんに「テストで良い点を取った」「習い事でほめられた」と報告して褒められているとき、あなたはどうしていますか? 「ふん、僕だって……」と部屋に閉じこもっていませんか?
ここで「お兄ちゃん、すごいじゃん!」「妹ちゃん、頑張ったね!」と家族の成功を誰よりも早く喜んでみてください。家族の空気がパッと明るくなり、お父さんやお母さんも「あなたも本当に優しい、いい子ね」と、あなたの魅力を再発見することになります。
家で「人の成功を喜ぶトレーニング」をしておけば、学校でも自然と友達の成功に笑顔で拍手ができるようになります。
4. どうしても心がモヤモヤするときの「リセット魔法」
そうは言っても、自分自身が落ち込んでいるときや、すごく努力したのに報われなかったときなどは、友達の成功をどうしても素直に喜べない日だってありますよね。それは人間ですから、当然のことです。
そんなときは、行動経済学でも使われる「比較(ひかく)のターゲットを変える」という魔法を使いましょう。
私たちが悔しくなるのは、常に「他人」と「自分」を比べているからです。他人と比べるのをやめて、「過去の自分」と「今の自分」を比べるように頭のスイッチを切り替えるのです。
たとえば、友達が陸上記録会で1位になり、あなたが5位だったとします。友達と比べれば悔しいですが、「去年までの自分」と比べてみてください。去年は8位だったとしたら、あなたは自分の力で順位を3つも上げたことになります。これは大成功ですよね!
「友達は友達のゴールに向かって進んでいる。自分は自分のゴールに向かって進んでいる」。そう思えるようになると、友達の1位を「おめでとう!」と称えつつ、自分の成長も「よく頑張った!」と誇ることができるようになります。
5. 明日、学校でやってみよう!
さあ、明日学校に行ったら、さっそく「拍手マスター」の第一歩を踏み出してみましょう!
誰かが朝の会で発表を終えたとき。朝のドリルで早く終わった友達がいるとき。休み時間のドッジボールで、見事なボールキャッチをした仲間がいるとき。
「0.5秒」で、誰よりも早く、笑顔でパチパチパチ!と拍手を送ってみてください。
あなたが送った温かい拍手は、巡り巡って、巡り巡って、必ず「クラスのみんなからの大歓声」となって、あなたのもとへ返ってきます。
他人の成功を喜べる人は、世界でいちばん強い人であり、世界でいちばん愛される人です。明日のあなたの笑顔と拍手が、クラス全体をあたたかい幸せの空気で包み込む様子を楽しみにしていますね!