第6章:小さな親切が「味方」を増やす
みんなが嫌がる係を自分から引き受ける
帰りの会で、担任の先生がこう言いました。
「はい、それでは今週の『配膳台(はいぜんだい)ふき係』と『重いゴミ捨て係』を決めるよ。やってくれる人はいるかな?」
その瞬間、教室の空気があらぬ方向へスーッと冷えていくのを感じたことはありませんか?
みんな一せいに目線を下げて、机の上の筆箱をじっと見つめたり、急に教科書を整理し始めたりします。「どうか自分と目が合いませんように……」と祈りながら、教室全体がシーーーンと静まりかえる、あの気まずい時間です。
だれもが「めんどくさいな」「やりたくないな」と思う仕事。できれば、だれかほかの人が手を挙げてくれないかなと、みんなが思っています。
でも、実はこの「みんなが嫌がること」こそが、あなたがクラスで最高の「味方」をたくさんつくるための、とびきりのチャンスなのです!
「えっ? めんどくさいことをしたら、自分が損をするだけじゃないの?」と思ったかもしれませんね。いいえ、そんなことはありません。人間の心の仕組みを研究する「行動経済学(こうどうけいざいがく)」という学問を使うと、この「いやな係を引き受ける」という行動が、どれほど強力にあなたを守り、友達を増やしてくれるかがよく分かります。
今回は、だれもがやりたがらない仕事をサッと引き受けることで、クラス中の人から感謝され、敵がサーッと消えていく「魔法のノウハウ」をじっくりお伝えしますね!
行動経済学で解き明かす「やりたくない」の心理
まずは、なぜみんながそんなに嫌がるのか、その理由を「心とお金や行動のルール」を調べる行動経済学の視点からのぞいてみましょう。ここには、人間の心の面白いクセが2つ隠されています。
1. 人間は「100円もらう」より「100円失う」ほうが2倍ショック!
行動経済学では、人間には「そんをしたくない!」と強く思う心があることが分かっています。これを専門用語で「プロスペクト理論(損失回避バイアス)」と呼びます。
たとえば、「100円あげるよ」と言われたときのうれしさよりも、「持っていた100円を落としてなくした」ときのショックのほうが、なんと約2倍も大きく感じられるのです。
これを学校生活にあてはめてみましょう。
遊ぶ時間を「自分の持ちもの」だとすると、めんどくさい係をやることによってその遊ぶ時間が減ってしまうのは、みんなにとって「大切な時間をうばわれる(損をする)」と感じられます。だからこそ、みんなは「損をしたくない!」と必死になり、あんなに手を挙げるのを嫌がるのです。
2. 「損から救ってくれた人」を、心は絶対に忘れない!
ここからが、とっても大切なポイントです。
みんなが「損をしたくない!」とブルブル震えているときに、あなたが「はい! ぼくがやります!」「わたしがやるよ!」と手を挙げたらどうなるでしょう?
クラスのみんなは、こう感じます。
「よかった〜! 自分が損をしなくてすんだ! 助かった!」
あなたが係を引き受けたことで、クラス全員が「損をする恐怖」から救われたのです。このとき、みんなの心の中には、あなたに対する大きな「感謝」と「安心感」が生まれます。
そして行動経済学には「互恵性(ごけいせい)のルール」というものがあります。人は「親切にされたり、助けられたりすると、お返しをしたくなる」という心のクセを持っているのです。あなたがみんなを嫌なことから救ってあげたことで、みんなの心の中に「あの人に何か良いお返しをしなくちゃ!」というあたたかい気持ちのタネが植えられます。
つまり、嫌な係を引き受けることは、決して「損をする損得勘定(そんとくかんじょう)」ではありません。「クラス全員の心の中に、あなたの味方になるタネをまくこと」なのです!
明日からできる!「嫌がられ係」を自分から引き受ける3つのステップ
「理由は分かったけれど、やっぱり自分から手を挙げるのは勇気がいるな……」と思う人も大丈夫。これから紹介する3つのステップを使えば、むりなく、しかもクラス中から「カッコいい!」と思われる形で引き受けることができますよ。
ステップ1:みんなの「やりたくない顔」を1秒だけ観察する
帰りの会や学級活動で、めんどくさい仕事(黒板消し、重い荷物運び、雨の日の傘立て整理など)を決める時間になったら、まず教室の様子をサーッと見渡してみましょう。
みんなが困った顔をしていたり、気まずそうに下を向いていたりしたら、それが合図です。「あ、いまみんなが『損をしたくないモード』になっているな」と心の中でつぶやいてみてください。客観的にまわりを見ることで、あなたの心の中に小さな余裕が生まれます。
ステップ2:ちょっとだけ「得意気」に手を挙げる
勇気を出して手を挙げるとき、暗い顔で「はぁ……じゃあ、ぼくがやります……」と言うのはもったいありません。それでは、みんなも「なんだか無理やりやらせちゃったな」と気まずくなってしまいます。
手を挙げるときは、ニコッと笑って、さわやかに「はい! やります!」と言ってみましょう。
嫌な仕事をパッと明るく引き受ける姿は、クラスのみんなの目にとびきり頼もしく映ります。「うわぁ、あいつ(あの子)、みんなが嫌がることを笑顔でやってくれた! すごいな!」と、一瞬で尊敬のまなざしに変わるのです。
ステップ3:「仲間を1人誘う」魔法のフレーズを使う
もし、自分1人だけでやるのが大変そうな仕事(大量の放課後作業や、大きなゴミ捨てなど)なら、こんな魔法のフレーズを使ってみてください。
「ぼく(わたし)がやるよ! ○○ちゃん、一緒にやってくれる?」
ゼロから「だれかやって」と言われるとみんな嫌がりますが、あなたがリーダーシップをとって「一緒やろう」と誘うと、相手は「いいよ!」と言いやすくなります。これも行動経済学の「ハードルを下げる」というテクニックです。一緒に作業をした友達とは、あっという間に仲良くなれますよ。
学校と家庭でつかえる!「味方を増やす」具体例
具体的に、どんな場面でこの魔法が使えるかを見てみましょう。
- 給食の「あまった牛乳やパン」のおかたづけ
みんなが遊びに行きたくて、食後の配膳台の周りがバタバタしているとき。「ぼくが牛乳パックをまとめておくね!」とサッと動くだけで、給食係や班のみんなから「神対応!」と感謝されます。 - 誰もやりたがらない「黒板消し」や「水ぶき」
冬の冷たい水でぞうきんを絞るのは、誰もが嫌がることです。ここぞとばかりに「わたし、今日ぞうきんがけやるよ!」と買って出ると、その温かい優しさはクラス中に広まります。 - 雨の日の「教室のすみっこ掃除」
濡れた傘や泥で汚れやすい玄関や教室のすみっこ。だれも見向きもしない場所を黙々とキレイにしている姿を、先生やクラスの「見てる人は必ず見ている」のです。 - お家での「ゴミ出し」や「お風呂掃除」
この魔法は学校だけではありません。お家でも、おうちの人が疲れているときに「今日のお風呂掃除、ぼくがやっておくね!」と言ってみてください。おうちの人は大感動して、あなたの最高の「味方」になってくれます(今度お願いごとを聞いてくれやすくなるかもしれませんよ!)。
嫌な係を引き受けると「敵」が消える理由
なぜ、この行動をとると「敵」がつくられなくなるのでしょうか?
想像してみてください。
クラスの中に、いつもみんなが嫌がる面倒なことをパッと笑顔で引き受けてくれる人がいたとします。その人のことを、だれかが悪口を言ったり、いじわるしたりしようとしたら、周りの人はどう思うでしょうか?
「えっ、なんであんなにいい人の悪口を言うの? いつも助けてもらっているのに」
そうなんです! あなたが普段から「小さな親切」を重ねて味方を増やしておくと、周りの人たちが自然とあなたを守る「バリア」になってくれるのです。いじわるをしたいと思っている人(敵になりそうな人)も、クラス全体があなたに感謝している空気を感じ取ると、あなたに攻撃することができなくなります。
あなたが嫌な仕事を引き受けるたびに、教室の中の「敵」になりそうな人が、どんどん「味方」へと裏返っていくのです。まるでリバーシのコマがパタパタと自分の色に変わっていくような感覚です。
さあ、明日から「魔法のチャレンジ」をしてみよう!
さあ、仕組みが分かったら、明日学校に行くのが楽しみになってきませんか?
明日、もし教室で「だれかこれやってくれないかな……」という気まずい空気が流れたら、心の中でニンマリしてください。「よし、味方を増やすチャンスが来たぞ!」と心の中でつぶやくのです。
大きなことをする必要はありません。1日に1回、小さな「だれかが嫌がること」をサッと引き受けるだけ。
その小さな親切の積み重ねが、あなたをクラスで一番愛される「頼もしいヒーロー」に変えてくれます。あなたの差し伸べたその手が、明日のクラスをもっとあたたかく、もっと居心地の良い場所にするのです。さっそく明日、第一歩を踏み出してみましょう!