第6章:小さな親切が「味方」を増やす
重い荷物を持っている友達を手伝う
学校のろうかで、絵の具セットと習字道具、さらに大きな図工の作品をかかえて、いまにも倒れそうにフラフラ歩いている友達を見たことはありませんか?
あさは重いランドセルを背負って登校するだけでも大変なのに、手さげぶくろがパンパンになっている友達は、とっても困っています。でも、心の中で「大変そうだなぁ」と思っても、なかなか「手伝うよ!」と声をかけるのは、ちょっと勇気がいりますよね。
「でしゃばりだと思われたらどうしよう」「余計なお世話かな?」と迷ってしまうかもしれません。けれど、ここですっと手を差ししのべることができる人は、クラスの中で「絶対に敵にならない、一番たよりになる味方」をどんどん増やしていくことができます。
今回は、なぜ重い荷物を持っている友達を手伝うと味方が増えるのか、そして明日からすぐに使える「親切の魔法」について、心のしくみを学びながら探っていきましょう!
人のこころをうごかす「お返しの心」のふしぎ
大人の学問に「行動経済学(こうどうけいざいがく)」というものがあります。これは、「人間が買い物をするときや、誰かと過ごすときに、どんな気持ちで行動を選ぶか」を研究する学問です。
この行動経済学では、人間にはとても面白い心の特徴があることがわかっています。それが「返報性(へんほうせい)の法則」、わかりやすく言うと「お返しの心」です。
人間は、誰かから優しくされたり、親切にしてもらうと、「うれしい!」と感じると同時に、心の中に「この人に何か良いことをしてお返ししたいな」という気持ちが自然と生まれるようにできているのです。
たとえば、こんな経験はありませんか?
- 友達から誕生日に消しゴムをもらったら、相手の誕生日にも何かあげたくなる。
- 係活動で困っているときに助けてもらったから、その人が困っているときは真っ先に手伝いたくなる。
- ゲームでアイテムを分けてくれた友達には、次から優しくしたくなる。
これは、あなたが優しい性格だからというだけでなく、人間の心に生まれつき備わっている「お返しの心」がはたらいているからです。
つまり、重い荷物を持っている友達に「半分持とうか?」と声をかけて手伝うと、相手の心の中には「〇〇ちゃん(くん)は、自分が困っているときに助けてくれた優しい人だ!」という強い記憶がのこります。すると、その友達はあなたのことを絶対に攻撃したり、意地悪をしたりしなくなります。それどころか、あなたが困ったときには必ず助けてくれる「最高の味方」になってくれるのです。
「余計なお世話」にならないための「ナッジ」の技術
「お返しの心」はすごいパワーを持っていますが、声をかけるときにひとつだけ気をつけたいことがあります。それは、相手に「はずかしい」と思わせないことです。
友達の中には、「自分で持てるもん!」と強がりたくなったり、人に助けてもらうのがちょっと恥ずかしいと感じるタイプの人もいます。いきなり「貸して!持てないんでしょ?」と強引にうばってしまうと、相手は「バカにされたのかな?」とカン違いしてしまうかもしれません。
ここで役に立つのが、行動経済学のもうひとつの考え方「ナッジ(Nudge)」です。ナッジとは、肘(ひじ)でつつくように、「相手が自然と良い行動を選びたくなるような、小さなきっかけをつくってあげること」を言います。
相手に恥ずかしさを感じさせず、自然に荷物を半分持たせてあげるための「ナッジの魔法」を使ってみましょう!
明日から学校で使える!荷物手伝いの3ステップ
では、具体的に明日からクラスで使える「3つのステップ」を紹介します。これを使えば、誰でも自然に親切ができて、友達の「心の味方」になれますよ。
【ステップ1】「はんぶん持とうか?」と声をかける
「ぜんぶ持つの大変でしょ?」と言うと、相手はプライドが傷つくことがあります。でも、「これ、重そうだね!半分持とうか?」と言われると、相手は「じゃあ、こっちの袋だけ頼もうかな」と素直に言やすくなります。
【ステップ2】理由をつけて手伝う
もっと自然に手伝いたいときは、理由を添えるのがコツです。「私もいま手が空いてるから」「階段のところまで一緒に持ってあげるよ」など、ついでにやるような雰囲気を出すと、相手も「ありがとう!」と言いやすくなります。
【ステップ3】運び終わったら「持ちやすくなって良かったね!」と笑いかける
無事に目的地(教室やロッカーなど)まで運び終わったら、「これで楽になったね!」と一言添えて、さわやかに自分の席に戻りましょう。「助けてあげたんだから感謝してね」という態度を見せないことが、相手の「お返しの心」をさらに大きくする秘密です。
学校生活のいろいろな場面で「親切の魔法」を使ってみよう
「重い荷物を持つ」というのは、登下校の手さげぶくろだけではありません。クラスの学校生活の中には、親切のチャンスがたくさん転がっています。
- そうじの時間:大きくて重い机や、水が入った重いバケツを1人で運んでいる友達がいたら、「一緒に持とう!」と声をかける。
- 係活動・委員会:配るプリントの束が重くて大変そうなとき、「半分こしよう」と分担する。
- 給食の時間:大きな食缶(しょっかん)や、牛乳の箱を運ぶ給食当番の友達のドアを開けてあげたり、一緒にかかえてあげる。
- 体育の時間:重いとび箱やマットを片付けるときに、「せーの!」と声をかけて一緒に持ち上げる。
どうですか?「あ、それなら明日すぐにできそう!」と思える場面がたくさんありますよね。
こうやって、毎日の中でほんの少しだけ相手の負担(たいへんさ)を減らしてあげる行動をとると、クラスの中でのあなたの評判はどんどん変わっていきます。
「あの人は、みんなが困っているときにいつも気づいてくれる」
「あの人と一緒にいると、なんだかホッとするな」
そんなふうに思われるようになると、あなたに対して意地悪を言ったり、敵になろうとする人はクラスから一人もいなくなります。
まずは「家のお手伝い」で特訓してみよう!
「でも、学校でいきなり友達に声をかけるのは、やっぱり緊張するな……」と思う人は、まず家の中で特訓してみるのがおすすめです!
お母さんやお父さんが、スーパーマーケットで買い出しをして、重い袋を両手に下げて帰ってきたときがチャンスです。
玄関まで走っていって、「重そう!半分持ってあげるね」と言って、袋を受け取ってみてください。
ご両親の顔を見てみましょう。きっと、パッと笑顔になって「ありがとう!すごく助かるよ!」と言ってくれるはずです。そのときに、あなた自身の心もポッと温かくなるのを感じられるでしょう。
人間は、誰かを助けて「ありがとう」と言われると、脳の中から「シアワセの物質」が出て、自分自身もすごく良い気分になるようにできています。親切は、助けた相手だけでなく、あなた自身も幸せにする魔法なのです。
家で親切の特訓をして「声をかけるリズム」をつかんだら、いよいよ明日は学校で試す番です。
小さな一歩が、クラスを「味方ばかりの世界」に変える
敵を作らない人というのは、特別な魔法を使っているわけでも、誰にでもペコペコしているわけでもありません。
ただ、「困っている人に気づいて、すっと手を伸ばせる人」なのです。
行動経済学が教えてくれるように、あなたが差し出した小さな親切は、巡り巡って「お返しの心」となり、大きな温かさとなってあなたのもとに返ってきます。
明日、学校のろうかや教室で、重い荷物を持って困っている友達を見かけたら、ぜひ心の中で「魔法を使うチャンスだ!」とワクワクしてください。
そして、笑顔で一言、こう声をかけてみましょう。
「半分、持とうか?」
そのたった一言から、あなたの明日からの学校生活は、味方でいっぱいの素晴らしいものに変わり始めますよ!