第9章:ちがいを認め合おう
相手の好きなものを否定しない
キミは、友達とこんな会話をしたことがありませんか?
「ねえねえ、最近、〇〇っていうゲームがすごく面白いんだ!」
「えー、それ古いよ!いまは××のほうが人気だし、グラフィックもきれいだし、ぜったいそっちのほうが神ゲーだよ」
悪気(わるぎ)はなかったとしても、この返事を聞いた友達は、どんな気持ちになるでしょうか。「自分の好きなものをバカにされたな」「もうこのゲームの話はするのをやめよう……」と、ちょっとさみしい気持ちになってしまいますよね。
人間は、自分が好きなものや、大切にしているものを否定されると、まるで自分自身が否定されたような強いショックを受けます。だからこそ、だれからも好かれる「神」コミュニケーションのマスターたちは、「たとえ自分が好きじゃなくても、相手の好きなものを絶対に否定しない」という鉄のルールを持っています。
今回は、世界中のさまざまな文化や人間の歴史を研究する学問「文化人類学(ぶんかじんるいがく)」の考え方をヒントにしながら、お互いの「ちがい」を面白がり、もっと仲良くなるための秘密の技術を伝授します。明日から、学校のクラスやグループでの会話がもっと楽しくなりますよ!
文化人類学が教えてくれる「ふつう」のひみつ
まずは、ちょっぴりカッコいい学問「文化人類学」のお話をしますね。むずかしく聞こえるかもしれませんが、とってもワクワクする学問です。
文化人類学者たちは、世界中のいろいろな国や地域に行って、そこに住む人たちのくらしや習慣を研究します。そこで彼らがびっくりするのは、「世界中に『ふつう』なんてものは存在しない」ということです。
- ある国では、手でごはんを食べることが「いちばん美味しく食べられる作法(さほう)」とされています。
- またある国では、スープを音を立てて飲むことが「美味しかったよという感謝のサイン」になります。
- 別の国では、日本で「首を縦に振る」と「はい(イエス)」を意味しますが、別の場所では「いいえ(ノー)」を意味することがあります。
日本の学校にいると、「みんなと同じようにすることが正しい」と思いがちですよね。給食をみんなと同じ時間にならって食べ、同じチャイムで行動する。だから、自分とちがう意見や趣味(しゅみ)に出会うと、「えっ、変なの!」と驚いたり、思わず否定したくなったりしてしまうのです。
しかし、文化人類学では、これを「文化相対主義(ぶんかそうたいしゅぎ)」という、とても大切な考え方でみます。これは、「どの文化や考え方にも、それぞれの歴史や理由があって、どれかひとつが絶対に正しいということはない。すべて対等(たいとう)にすばらしい」という見方です。
これをキミのクラスや友達関係に当てはめてみましょう。クラスの友達が好きなアニメ、集めているキャラクターの消しゴム、家で飼っているペットの種類、お母さんと一緒に行くスーパーの好み。これらはすべて、その子にとっての「小さな文化」です。
「自分とはちがうけれど、この人にとってはそれが大切な文化なんだな」と受け止めること。これが、文化人類学の視点を持った「おとなでスマートなコミュニケーション」なのです。
「えー、それ変なの!」が引き起こすキケンな未来
相手の好きなものを否定してしまうと、どんなことが起きるでしょうか。ちょっと想像してみてください。
例えば、係活動のポスターを描くときです。キミが「かっこいいロボットの絵にしよう!」と提案したとします。そこに友達が「えー、ロボットとか子どもっぽくない?いまどきは可愛い動物のイラストのほうが絶対ウケるよ」と言ってきたら……?
せっかくのやる気がシュンとしぼんでしまいますよね。「この人に意見を言うと、また否定されるかもしれない」と思って、だんだん本音を話さなくなってしまいます。これが積み重なると、クラスの中で「本音で話せる友達」が減ってしまい、みんなが周りの顔色ばかりをうかがう息苦しい空気になってしまいます。
人間は、自分をそのまま受け入れてくれる場所(心理的安全性といいます)でしか、本当にリラックスして力を発揮することができません。だからこそ、「相手の好きを否定しないこと」は、クラスみんなの居心地をよくする魔法の力なのです。
明日からできる!「好き」を否定しない3つの神ステップ
では、自分とは趣味や好みがまったくちがう友達と話すとき、どうすれば「否定せずに、もっと仲良くなれる」のでしょうか?具体的な3つのステップを見ていきましょう。
ステップ1:まずは「へえ!」と言ってみる(事実の受け止め)
友達から自分の知らないアイドルや、興味のないマンガの話をされたとき、最初のひと言目はこう言ってみましょう。
- 「へえ、そんなのがあるんだ!」
- 「知らなかった!教えてくれてありがとう」
これだけで十分です。自分が好きかどうかは置いておいて、「そんな世界が存在するんだな」という事実を、ただそのまま受け止めます(これを文化人類学の言葉で「フィールドワークの姿勢」と言います。まずは偏見を持たずに観察するのです)。
ステップ2:「なぜ好きなの?」と探検隊になる(好奇心を持つ)
次に、キミが「文化人類学の探検隊(たんけんたい)」になったつもりで、相手に質問をしてみましょう。否定する代わりに、興味を持って深掘りするのです。
- 「へえ、そのアニメの、どのキャラクターが一番好きなの?」
- 「どういうところが面白いの?おすすめのシーンとかある?」
人間は、自分の好きなものについて興味を持って質問されると、すごく嬉しくなり、どんどん話したくなります。相手の目がキラキラ輝き出すのが分かるはずです。
ステップ3:ちがいを面白がる(ダイバーシティの精神)
話を聞いたあとに、「自分とは趣味はちがうけれど、それってすごく面白いね!」と思えたら100点満点です。
もし自分がどうしてもそのジャンルを好きになれなくても、大丈夫。「世の中にはいろんな人がいて、いろんな楽しみ方があるんだな。自分も知らない世界をちょっとのぞかせてもらえてラッキーだな」と思えれば、それだけでキミの人間としての器(うつわ)はグッと大きくなっています。
家庭でもやってみよう!お母さんやお父さんと「ちがい」を楽しむ
このコミュニケーション術は、学校だけでなく、お家の中でも大かつやくします。
例えば、夕食のテレビ番組を見ているとき。お父さんは「ニュースの特集を見たい」、キミは「アニメの再放送を見たい」、お母さんは「バラエティ番組が好き」と、意見が分かれることはありませんか?
そんなとき、「えー、またニュース? つまんないよ!」と言いたくなるところをグッとこらえてみましょう。
「お父さんは、いま世界で何が起きているのか知りたいんだな。ぼくはアニメのストーリーを楽しみたい。お母さんは今日一日がんばったから、笑ってリラックスしたいんだな」
家族それぞれに「好きなもの」「大切にしている時間」があって、それはどれも間違っていません。お互いの「ちがい」を認め合うことができると、お家の中の空気がパッと明るくなります。家族という一番身近なコミュニティでこのトレーニングをしておくと、学校で友達と意見がぶつかったときでも、自然とやさしい対応ができるようになります。
「ちがい」は、世界を広げる宝物
もし、世界中の人が全員、キミと同じアニメが好きで、同じ食べ物が好きで、同じ考え方だったらどうでしょう?
最初はラクかもしれませんが、新しい発見も感動もありません。新しいおいしい食べ物に出会うことも、今まで知らなかったすばらしい音楽に感動することもなくなってしまいます。
自分とちがう「好き」を持っている人は、キミの知らない世界を教えてくれる案内人です。
相手の好きなものを否定せず、「そんな見方もあるんだね」「それを知れてよかったな」と受け止めることは、相手をリスペクトする(敬う)ことそのものです。そして、相手の「好き」を大切にした分だけ、相手もキミの「好き」を大切にしてくれるようになります。
さあ、明日学校に行ったら、隣の席の友達が何に夢中になっているか、じっくり観察してみましょう。そして、「それ、面白そうだね!どんなところが好きなの?」と、探検隊の笑顔で話しかけてみてください。きっと、昨日よりもっとステキな笑顔の友達が返ってくるはずですよ!