小さな約束を積み重ねて信頼を貯める
きみは、友だちからこんなことを言われた経験はありませんか?
「あした、朝の会が始まる前に、昨日の宿題のノートを見せてね」
「うん、わかった!絶対持ってくるね!」
そして次の日の朝。きみはゲームやテレビに夢中で、うっかりノートを机の上に忘れてしまいました。学校に着いて友だちに「ごめん!忘れた!」と笑ってごまかしたとき、友だちの顔が少しだけ曇ったのを、きみは見逃さなかったはずです。
「たかがノートを忘れたくらいで、そんなに怒らなくてもいいのに……」って、心の中で思ったかもしれませんね。でも、実はその「小さな約束をやぶる」という出来事が、クラスでの人気や、友だちからの信頼を大きく削ってしまっているとしたらどうでしょう?
この章では、約束を守ることがなぜそんなにも大切なのか、そして、どうすれば「あの人にお願いすれば絶対に大丈夫!」とみんなから頼られる「信頼の貯金」ができるのかを、ってお伝えしていきます。明日から学校で試せる魔法のコツが、ここに詰まっていますよ。
なぜ、小さな約束がそんなに大切なのだろう?
約束というと、「日曜日に遊園地に行く」とか「誕生日プレゼントを交換する」ような、大きなイベントを思い浮かべるかもしれません。もちろん、そういう大きな約束を守ることは大切です。
でも、僕たちの毎日の学校生活は、もっと小さな約束でできています。
- 「次の理科の実験で、一緒のグループになろうね」
- 「給食のあと、黒板を消すのを手伝うよ」
- 「図書館で借りた本、来週の月曜日に返すね」
- 「掃除の時間終わったら、校庭の鉄棒のところで待ち合わせね」
どうですか? きみの毎日のスケジュールも、こんな小さな約束でいっぱいですよね。そして、実は「好かれる子」と「なんだか最近、人が離れていってしまう子」の決定的な違いは、この小さな約束をどう扱っているかにあるのです。
約束をやぶってしまったとき、私たちはつい「うっかりしてた」「忘れていただけだから許してよ」と言い訳しがちです。しかし、待ってください。約束をした相手にとっては、「自分のことを大切にしてくれなかったんだな」「私のとの約束は、どうでもいいことなんだな」というふうに感じられてしまうのです。
信頼というのは、ガラスのコップに水を一滴ずつ垂らしていくようなものです。何日もかけて少しずつ、きれいな水をためて、やっといっぱいにすることができます。でも、約束をやぶるという行為は、そのコップをガチャンと床に落として、中の水を一気にこぼしてしまうようなものなのです。
行動科学と「ゲーム理論」から見る、約束のひみつ
ここで、少しだけ大人っぽい、でもとっても面白いお話をしましょう。「ゲーム理論(げーむりろん)」という言葉を聞いたことはありますか?
難しそうに聞こえるかもしれませんが、要するに「人間同士が、お互いにどんな作戦をとったら、自分も相手も一番トクをするかを考える科学」のことです。動物や人間は、みんな「自分にとって一番いい結果にしたい」と思っています。
ゲーム理論の中に、「囚人のジレンマ(しゅうじんのじれんま)」という有名な考え方があります。簡単に言うと、こんなルールです。
- お互いに協力し合えば、2人とも大きなごほうびがもらえる。
- どちらか1人が裏切って、自分だけトクをしようとすると、裏切られた方は大損をする。
- お互いに裏切り合ってしまうと、2人とも最悪の結果になってしまう。
これを学校生活に置き換えてみましょう。クラスの友だちとの関係も、まさにこのゲームの連続です。
きみが「あ、約束を守るのめんどくさいな。今回はいいか(裏切り)」と考えるとします。そのときは、きみは少しだけ楽ができるかもしれません。宿題を見せなくてすんだり、掃除をサボって遊べたりするからです。でも、約束を裏切られた友だちは「もうあの子とは大切な話をするのはやめよう」「今度から助けてあげない」と思います。
これが繰り返されると、どうなるでしょうか? クラスのみんなが「あの子は約束を守らないから、協力するのをやめよう」となり、結果的にクラスの中で孤立してしまいます。誰も助けてくれない、誰も信じてくれないという、一番最悪の結果になってしまうのです。
逆に、どんなに小さな約束であっても「めんどくさいな」と思いつつもちゃんと守り続けると、どうなるでしょう?
- 友だちは「この子は絶対に約束を守る人だ」と安心します。
- 困ったときに「手伝おうか?」と声をかけてもらえるようになります。
- 学級委員や係の仕事など、大切な役割を任せてもらえるようになります。
つまり、約束を守ることは、自分を一番トクさせる最強の作戦(魔法)なのです。ゲーム理論の世界では、これを「繰り返しゲーム」と呼びます。何度も顔を合わせる学校のクラスメイトとは、一度きりの付き合いではありません。明日も、明後日も、1年間ずっと同じ教室で過ごします。だからこそ、信頼をコツコツ貯める人が、最終的に一番ハッピーになれるのです。
明日からできる!「信頼を貯める」3つのステップ
「約束を守るのが大事なのはわかったけれど、どうしても忘れちゃうんだよね……」
そんなふうに思ったそこのあなた! 大丈夫です。物忘れが多い人でも、今すぐできる「約束を絶対に忘れないテクニック」を3つ伝授しますね。
ステップ1:その場でメモをする魔法
友だちから「あした、ノート見せてね」と言われたとき、「はーい、わかった!」と口だけで返事をするのは危険です。人間の脳の記憶力は、残念ながらそんなに長くはもチません。別の友だちから話しかけられた瞬間に、前の約束はきれいさっぱり消えてしまいます。
だからこそ、約束をした瞬間にメモをする習慣をつけましょう。筆箱の中に小さなメモ帳を入れておいてもいいですし、手のひらに「ノート」とマジックで小さく書いておく(あとで消す前提で!)のもアリです。連絡帳に「〇〇さんにノートを貸す」と書き留めるのも素晴らしい方法です。
「ちゃんとメモしてくれたんだ!」という姿を見せるだけで、友だちは「この子は真剣に自分との約束に向き合ってくれているんだな」と、それだけで信頼してくれます。
ステップ2:「できない約束」は最初に断る勇気を持つ魔法
優しい子ほど、「友達に頼まれたら、断るのが悪い気がして、なんでも『いいよ!』って言っちゃう」という悩みを抱えています。
例えば、水曜日の放課後は習い事で時間がギリギリなのに、友だちから「水曜日の放課後、校庭でサッカーの練習につきあって!」と言われたとします。「本当は行けないけれど、断ったら嫌われちゃうかも……」と思って、「うん、いいよ!」と返事をしてしまう。結果、水曜日は大慌てになり、待ち合わせ場所にも遅刻してしまった――。
これでは、約束を守れなかっただけでなく、お互いにイヤな気持ちになってしまいますよね。
実は、「できない約束は、その場でハッキリ断る」ほうが、結果的に何倍も好かれます。
「うわあ、それすごくやりたい! でも、水曜日は習い事があってどうしても間に合わないんだ。木曜日なら行けるんだけど、どうかな?」
このように、代わりの提案(代替案)をセットにして伝えることができれば、断っても絶対に嫌われません。むしろ、「自分のために真剣に考えてくれたんだな」と、相手は嬉しく思うはずです。
ステップ3:万が一、遅れたり忘れたりしたときの「神対応」
どれだけ気をつけていても、人間ですから、時にはうっかり約束を忘れてしまったり、寝坊して遅刻したりすることもあります。そんなときのあなたの態度が、「好かれる子」と「そうでない子」の分かれ道になります。
やってはいけないワースト行動はこれです。
・「え?そんな約束したっけ?」とぼとぼぼかす。
・「だって〇〇くんがさあ!」と人のせいにする。
・ヘラヘラ笑ってごまかす。
これをしてしまうと、信頼のコップは完全に割れてしまいます。では、どうすればいいのでしょうか? 答えはシンプルです。
「気づいた瞬間、すぐに、まっすぐ謝る」ことです。
「ごめん! 昨日『ノート持ってくるね』って言ったのに、机の上に忘れてきちゃった。本当にごめんね。今日の放課後、急いで取りに帰るから待っててもらえる?」
このように、言い訳を一切せずに、自分のミスを素直に認めて、すぐに謝る。そして、これからどうやって挽回(ばんかい)するのかの行動を見せるのです。素直に謝れる人は、まわりから見ていてとてもかっこいいものです。「この子は何かミスをしても、ちゃんと正直に言ってくれるから信用できる」と、かえって好感度が上がることさえあります。
約束を守ることは、未来の自分へのプレゼント
クラスのなかで、いつも笑顔で、まわりにたくさん友だちが集まっている子がいますよね。その子は、特別におもしろい冗談を言っているわけでも、お菓子をたくさん配っているわけでもありません。
ただ、その子は「小さな約束を、ちゃんと守る人」なのです。
「掃除の担当を交代してくれてありがとう」
「昨日貸してくれた消しゴム、きれいにして返してくれてうれしかった」
「約束の時間に、ちゃんと待っていてくれた」
そういう日々の積み重ねが、教室のなかに見えない「信頼の空気」を作ります。その空気の中にいると、きみ自身もすごく居心地が良くなるし、何か困ったことが起きたときには、クラスのみんなが真っ先に助けにきてくれるようになります。
ゲーム理論の考え方を思い出してくださいね。まわりの人に誠実に接し、約束を守ることは、遠回りに見えて、実は自分が一番幸せに学校生活を送るための最高の作戦なのです。
さあ、今日の放課後、そして明日の朝、きみはどんな小さな約束をしますか?
「うん、わかった! 絶対守るね!」と笑顔で言える自分になって、明日もワクワクしながら教室のドアを開けましょう!