貸し借りで困っている人を助ける
図工の時間、まわりのみんなが楽しそうに画用紙を切りはじめているのに、一人だけ手をとめて、あせった顔でふでばこをごそごそ探している友達を見かけたことはありませんか?
「あ、ハサミを忘れちゃったのかな……」
そう思ったとき、あなたならどうしますか?
「自分で忘れたんだから、しらないよ」と知らんぷりをするか、「どうぞ、これ使っていいよ!」と声をかけるか。実は、このふたつの選たくのどちらをとるかで、あなたの学校生活は大きく変わります。
学校では、いろいろな「貸し借り」の場面があります。
- 算数の授業:定規やコンパスを忘れて、となりの席でこまっている友達
- 雨の日の休み時間:トランプやかるたをやりたいけれど、持っていない友達
- そうじの時間:自分のぞうきんが見つからなくて、おろおろしている給食係の友達
- 雨上がりの下校:かさを忘れて、げんかんの前で立ちつくしている友達
貸し借りは、ただの「もののやりとり」ではありません。そこには、「あなたを助けるよ」という思いやりと、「この人なら信じられる」という信頼のバトンが行き交っています。
でも、貸してあげたい気持ちがあっても、「貸したものがこわれたらどうしよう」「返してくれなかったら嫌だな」と不安になることもありますよね。貸し借りで困っている友達を上手に助け、絶対に敵をつくらずに、クラス中の人気者になるには、ちょっとした「コツ」があるのです。
「ゲーム理論」で見えてくる!貸し借りと心のかけひき
ここで、世界中の頭のいい学者たちが研究している「ゲーム理論(ゲームりろん)」という考え方を紹介しましょう。「ゲーム」といっても、テレビゲームのことではありません。「人と人が関わるとき、お互いにどんな行動をとると一番ハッピーになれるか」を計算する、心の数学のようなものです。
ゲーム理論では、自分と相手のあいだに、次のような「4つの未来」があると考えます。
たとえば、あなたが定規を忘れた友達に「貸してあげる(協力する)」か「貸さない(協力しない)」かを選び、相手が「ちゃんと返す(協力する)」か「返さない・乱暴につかう(協力しない)」を選ぶとします。
- パターン①【大成功】:あなたが貸して、相手もちゃんと返す(ふたりともハッピー!)
- パターン②【大損】:あなたが貸したのに、相手が返さない(あなただけが悲しい)
- パターン③【ちょっと損】:あなたが貸さず、相手もこまったまま(誰もハッピーにならない)
- パターン④【ズル】:あなたは貸さず、相手からだけ借りる(相手を嫌な気持ちにさせる)
一番いいのは、もちろんパターン①の「お互いに協力する未来」ですよね。でも、人間はだれでも「パターン②(損をすること)」がこわいので、ついつい貸すのをためらったり、知らんぷりをしたりしてパターン③を選んでしまいがちです。
ここで、ゲーム理論のすごい発見をおしえます!
もし、相手と会うのが「一生に一回だけ」なら、いじわるをする人が勝つこともあります。しかし、学校のクラスのように「明日も、来週も、卒業までずっと一緒に過ごす関係」では、まったく別のルールがはたらきます。これをゲーム理論では「くりかえしゲーム」と呼びます。
くりかえしゲームの世界では、「最初に自分から親切にして、相手を助けること」が、自分にとっても一番得をする最強の作戦だと、数学的に証明されているのです!
あなたが困っている友達を助けると、相手は「あの人はいい人だ!親切にしてくれた!」と感動します。そして、次にあなたが何かを忘れたり、困ったりしたときに、相手はぜったいにあなたを助けてくれます。こうして、クラスの中に「助けあいの輪」が広がり、あなたの味方がどんどん増えていくのです。
「助けあいの魔法」を使いこなす3つのステップ
では、具体的に明日から学校で使える「貸し借りの魔法」のステップを見ていきましょう!この通りにやるだけで、あなたはクラスの「隠れたヒーロー」になれます。
ステップ1:困っている子をすばやく見つける「観察(かんさつ)メガネ」
困っている友達の多くは、「忘れた!」と大声で言えません。先生におこられるのがこわかったり、恥ずかしかったりするからです。だからこそ、相手の合図(サイン)に気づいてあげることが大切です。
- ふでばこや引き出しの奥を、何度もゴソゴソ探している
- 周りの子の手もとを、チラチラとうらやましそうに見ている
- 教科書が開けず、下を向いてじっとしている
こんな友達を見つけたら、あなたの「観察メガネ」がピカッと光るチャンスです。「どうしたの?」と優しく声をかけてあげましょう。
ステップ2:相手のプライドを守る「かし方の魔法」
声をかけるときは、上から目線にならないことが大切です。「貸してあげるよ!」と威張って言うと、相手は少し恥ずかしくなってしまうことがあります。そこで、次のような「魔法の言葉」を使ってみてください。
「あ、予備(よび)があるから使って!」「私もこの前忘れたから、お互いさまだよ!」
「お互いさま」という言葉を使うと、相手は「助けてもらった」というプレッシャーを感じず、心から「ありがとう!」と思えるようになります。貸すときは、さっと机の上に置いてあげるだけで十分です。このスマートな対応が、あなたの知的で優しい魅力を引き立てます。
ステップ3:貸したあとも安心!「やさしい約束」をつくる
「貸したけれど、返ってこなかったらどうしよう」という不安をなくすために、あらかじめ「やさしいルール」をつくっておきましょう。ゲーム理論でも、お互いにルールがはっきりしているほうが、協力しやすいことが分かっています。
- 時間をきめる:「帰りの会のまえに返してね」「この授業が終わったら教えてね」と終わりを伝える。
- なまえを書いておく:自分のものには、しっかり名前を書いておき、相手が混ぜてしまわないようにする。
- 笑顔で受け取る:返してもらったときは、「わざわざありがとう!」と笑顔で受け取る。
もし相手が返すのを忘れていたら、「怒る」のではなく、「さっきの消しゴム、ふでばこに戻しておいてね!」と、明るく思い出させてあげれば大丈夫です。
もしも「貸したくない」ときはどうする?
ここで、大切なアドバイスをひとつしておきます。
友達が困っていても、「自分の大切な宝物だから貸したくない」「過去に乱暴にあつかわれたから貸したくない」という場面もありますよね。ゲーム理論でも、自分の大切なものを一方的に失い続けるのは「正しい協力」とは言えません。
そんなときは、無理をして貸す必要はありません。でも、「断り方」をまちがえると、相手を敵にしてしまう危険があります。
断るときは、絶対に「いやだ!」「貸すわけないじゃん!」と相手を否定してはいけません。次のように断るのが、賢いプロのやり方です。
「ごめんね、これは人からもらった大事なものだから貸せないんだ。でも、〇〇ちゃん(他の友達や先生)なら予備を持っているかもしれないよ!」
「なぜ貸せないのか(理由)」を優しく伝え、さらに「かわりにどうすればいいか(解決策)」を教えてあげるのです。これなら、相手も嫌な気分にならず、「親切に断ってくれたな」と感じて、敵になるのをふせぐことができます。
貸し借りで「信頼ポイント」をどんどんためよう
目には見えませんが、クラスの人間関係には「信頼ポイント」という心の銀行口座(こうざ)があります。
あなたが困っている友達にハサミを貸したり、赤ペンを貸したりするたびに、あなたの口座に「信頼ポイント」が10ポイントずつ貯まっていきます。そして、このポイントがたくさん貯まっている人は、クラスの中で絶対に孤立しません。敵ができることもありません。
家でおうちの人のお手伝いをするときも同じです。「お皿洗いを手伝うよ」と手を差し伸べると、おうちの人からの信頼ポイントが貯まりますよね。学校でも家でも、相手が「困った!」と思った瞬間こそが、信頼ポイントを爆発的に増やすチャンスなのです。
ゲーム理論が教えてくれる一番の真実、それは「親切は巡り巡って、必ず自分に最高のかたちで返ってくる」ということです。
明日学校でやってみよう!「貸し借りヒーロー」のチェックリスト
さあ、明日の朝、学校に行ったらさっそく「貸し借りの魔法」を試してみましょう!ワクワクしながら、次のリストを頭に入れて登校してくださいね。
- 朝の会のまえ:ふでばこを開けて、自分の中に「人に貸せる予備(鉛筆や消しゴム)」があるかチェックしてみる。
- 1時間目の授業:となりの席や周りの友達が、道具を出せなくて困っていないか「観察メガネ」で見てみる。
- 困っている子を見つけたら:「これ、よかったら使って!」と、笑顔で一言声をかけてみる。
- 返してもらったとき:「助かったよ、ありがとう!」と心をこめて言葉を交わす。
あなたがたった一人の困っている友達に差し伸べたその手から、クラス全体のあたたかい雰囲気がつくられていきます。「貸し借り」をマスターして、明日からクラスで一番信頼される、素敵な存在になってくださいね!