自分がされてうれしいことを相手にもする
学校で、こんなことってありませんか?
消しゴムをうっかり床に落としてしまい、コロコロと遠くへ転がっていってしまったとき。自分では手が届かなくて「どうしよう……」と焦っていると、近くにいたお友達がさっと拾って「はい、どうぞ」と渡してくれた。
そのとき、どんな気持ちになりましたか?
「わあ、助かった!」「なんて優しいんだろう!」「この子、すてきだな」と、胸のあたりがポッと温かくなって、そのお友達のことが一気に大好きになりませんでしたか?
人は、自分を助けてくれたり、親切にしてくれたりする人のことが大好きになります。これは、小学生だけでなく、大人になっても変わらない人間の心の仕組みです。
今日の魔法は、「自分がされてうれしいことを相手にもする」です。
「えっ、それだけ?」と思うかもしれません。でも、このシンプルな行動には、人間関係を劇的に変えてしまうすごいパワーがかくされているのです。
「してもらったら、お返ししたくなる」心の科学
まずは、ちょっぴり知的なお話をしますね。みなさんは「行動経済学(こうどうけいざいがく)」という言葉を聞いたことがありますか?
なんだか難しそうな名前ですが、要するに「人間がお金やモノ、そして人づきあいをするときに、どんなふうに考えたり行動したりするのか」を研究する学問です。
この行動経済学の中に、人間にとってとても強力なルールがあります。それが「返報性(へんほうせい)の原理」です。
難しく聞こえますが、意味はとってもシンプルです。
人間は、他人から何かいいことをされたり、親切にされたりすると、「自分も何かお返しをしなくちゃ悪いなあ」「お礼をしたいなあ」と自然に思ってしまう生き物なのです。
たとえば、お友達からおいしいチョコレートを1粒もらったとします。「これ、あげる!」と言われたら、あなたはどうしますか? 「もらうだけでは申し訳ないな。今度ぼく(わたし)も、おいしいお菓子を分けてあげよう!」と思いますよね。
これが「返報性の原理」です。ものは言いよう、心は心。親切は親切を呼ぶというわけです。
つまり、あなたが誰かに優しくすることは、ただその人を助けるだけではなく、「相手からも優しさを返してもらえる環境をつくる」ことにつながっているのです。
学校生活で実践!「先回り」のプチ親切
では、明日から学校でこの魔法をどうやって使えばいいでしょうか? 「自分がされてうれしいことをする」といっても、大げさなことをする必要はまったくありません。
ポイントは、相手が困る前に動く「先回り(さきまわり)」です。具体的なシーンを見ていきましょう。
シーン1:係の仕事や当番での「ちょっとした手助け」
給食の配膳のときや、お掃除の時間。クラスのみんながバタバタと忙しく動いている場面です。
- 黒板を消したあとの黒板消しが、チョークの粉で真っ白になっているとき、頼まれていないけれど窓の外でパタパタとはたいてきれいにしておく。
- プリントを配るとき、次のグループの机の端っこにも「どうぞ」とあらかじめ置いておく。
- ほうきで掃いたあと、ちりとりを持って「ここ、ゴミ集めたよ」と広げてあげる。
自分がもし「あ、これ誰かがやっておいてくれたらすごく助かるのに!」と思うことを、こっそり、またはサラッとやってみるのです。目立とうとする必要はありません。誰かが見てくれていなくても、あなたのその優しい行動は、必ずクラスの空気を温かくします。
シーン2:グループワークや係の話し合いでの「共感」
総合的な学習の時間や、班での話し合いのときです。
- お友達が意見を発表したとき、「それ、すごくおもしろいアイデアだね!」と一番に賛成する。
- なかなか意見が出なくて困っている子がいたら、「こういうことかな?」と優しく言葉にして引き出してあげる。
- 発表の係になった子が緊張していたら、「大丈夫、練習どおりやれば絶対うまくいくよ!」と声をかける。
自分の意見を聞いてもらったり、褒めてもらったりすると、誰だってうれしいですよね。それをそのまま相手に返すのです。自分がされてうれしい言葉を、クラスのなかで一番多く言える人になれたら、あなたはもう「好かれる子」の達人です。
シーン3:おうちでの「見えないお手伝い」
学校だけではありません。おうちの中でも、この魔法は大きな効果を発揮します。
- お母さんやお父さんが夕飯の準備で忙しそうなとき、言われなくてもお箸やお皿をテーブルに並べておく。
- 脱ぎっぱなしの靴が揃っていなかったら、自分のついでに家族の靴も端っこに寄せておく。
- リビングのテーブルの上の消しゴムのカスを、サッとティッシュでまとめてゴミ箱に捨てる。
家族は一番身近な人間関係です。家の中で「自分がされてうれしいこと」ができる人は、学校でも自然と周りを思いやれるステキな行動ができるようになります。
「見返り」を求めないのが、最大のコツ
ここで、とても大切な注意点をひとつお話しします。
「自分が親切にすれば、相手も親切にし返してくれる(返報性の原理)」と聞くと、「じゃあ、ぼくがこれをやってあげたんだから、あいつも何かしてよ!」と、見返り(お返し)を期待したくなってしまうかもしれません。
でも、ここに大きなワナがあります。
「これだけしてあげたのに、お礼を言ってくれない」「お返しをくれない」という気持ちが態度に出てしまうと、それは相手に「見返りを求めているんだな」と伝わってしまい、かえって重たく感じられてしまうのです。
本当の魔法使いは、見返りを求めません。
「ただ、自分がそれをされてうれしいからやる」
このピュアな気持ちこそが、周りの人を引きつける一番の魅力になります。「ありがとう」と言われなくても、「自分が気持ちいいからやったんだ」と思えれば、それだけで自分の心も晴れやかになりますよね。
結果として、あなたが優しさを振りまいていると、まわりまわって、あなた自身が本当に困ったときやピンチのときに、たくさんの友達が助けてくれるようになります。これが、行動経済学が教えてくれる人間関係のすてきな法則です。
明日、学校で最初に試してみること
さあ、いよいよ明日から学校です。
教室のドアをくぐるとき、心の中でこうつぶやいてみてください。
「今日、私は(ぼくは)誰のどんな小さな困りごとを助けようかな?」
大きなことじゃなくていいんです。消しゴムを拾うことかもしれないし、落としたノートを「はい」と渡すことかもしれない。元気に「おはよう!」と笑顔であいさつをすることかもしれない。
自分がされてうれしいことを、ほんの少しだけ、まわりの人におすそわけしてみましょう。
あなたが放った小さな優しさは、必ずまわりを巡り巡って、あなた自身の毎日を最高に楽しく、温かいもので包み込んでくれますよ。