悲しんでいる子にはそっと寄り添って話を聞く
学校で、こんな場面を見たことはありませんか?
大すきだったテストで、うっかり名前を書き忘れてしまって点数がすごく下がったとき。ドッジボールの試合で、自分のせいでボールを落として負けてしまって、みんなの前で泣きそうになっているとき。
または、あなた自身が、そんなふうにすごく落ち込んで、誰にも声をかけてほしくないような気持ちになったことがあるかもしれません。
クラスの友だちが悲しんでいたり、困っていたりするとき、私たちは「どう声をかけたらいいんだろう」「何か面白いことを言って、元気づけてあげたほうがいいのかな?」と、ドキドキしてしまいますよね。
でも、ちょっと待ってください。友だちが悲しいとき、本当に必要なのは、お笑い芸人のような面白い冗談でも、「そんなの気にしないでよ!」という元気すぎる励ましの言葉でもありません。
悲しんでいる子に必要なのは、「あなたの痛みや悲しみに、そっと寄り添ってくれる人」です。
今日は、友だちの心が深く傷ついているときや、しょんぼりしているときに、どうやって心から寄り添い、本当の信頼関係を築くのか。そのとっておきの方法を、脳の仕組みをひもときながらお話しします。
脳の科学が教えてくれる「共感」のすごいパワー
「どうして、悲しんでいる友だちのそばに静かに座ってあげるだけで、元気が出るんだろう?」
そう思ったことはありませんか? これは、私たちの頭の中にある「脳(のう)」のすギい仕組みが関係しています。
人間の脳の中には、「ミラーニューロン」という、とっても面白い名前の神経細胞(しんけいさいぼう)があります。このミラーニューロンは、別名「共感(きょうかん)のミラー」とも呼ばれています。
ミラーニューロンは、鏡(かがみ)のように、目の前にいる人の様子を自分のことのようにキャッチする働きをしています。
例えば、目の前の友だちが涙を流してしょんぼりしているとき。あなたのミラーニューロンは、「あ、今この人は痛みをかんじているんだな」「すごく悲しいんだな」という気持ちを、言葉を話さなくても一瞬でキャッチします。
そして、脳のなかで「痛み」や「悲しみ」をかんじるエリアが、少しだけ反応するのです。
つまり、人間はもともと、「他の人の悲しみを自分のことのように感じ取る力」を生まれながらに持っている生き物です。だからこそ、友だちが困っているときに「知らんぷり」をするのは、脳にとってもすごく不自然なことなんです。
脳を安心させる「ホットライン」
さらに、神経科学(しんけいかがく:脳や神経の仕組みを研究する科学)の研究で、こんなことが分かっています。
人間は強いストレスを感じたり、悲しい出来事があったりすると、脳のなかの「不安やパニックをコントロールする場所」がフル回転して、心も体もカチコチに緊張してしまいます。
テストで失敗したときにお腹が痛くなったり、怒られて頭が真っ白になったりするのは、この脳の緊張のせいです。
そんなとき、脳の緊張をフッとゆるめてくれる最強の薬があります。それは、薬局に売っているお薬ではありません。「だれかが自分のそばにいてくれて、話をうんうんと聞いてくれること」です。
だれかが隣に座って、自分の気持ちを否定しないで「そうだったんだね」と聞いてくれると、脳の中で「オキシトシン」という、「安心ホルモン」がたくさん分泌(ぶんぴつ)されます。
このオキシトシンが出ると、カチコチに緊張していた脳のなかの不安スイッチがオフになり、「あ、自分は一人じゃないんだ」「この人の前では安全なんだ」と感じて、心がスーッと軽くなるのです。
これが、悲しんでいる人に「そっと寄り添って話を聞く」ことが、科学的にも最高の癒やしになる理由です。
明日からできる!「そっと寄り添う」3つの魔法
脳の仕組みが分かったところで、明日から学校でできる具体的な行動を3つ、紹介します。どれもむずかしいことではなく、ちょっとした気くばりです。
- 無理に元気づけようとしない
- 「どうしたの?」と問い詰めない
- ただ「隣にいるよ」の姿勢を見せる
それぞれの魔法について、詳しく見ていきましょう。
魔法その1:無理に元気づけようとしない
お友達が泣いていたり、落ち込んでいたりすると、私たちはつい「そんなに泣かないでよ!」「次のテストでがんばればいいじゃん!」と、すぐに明るい言葉をかけたくなりますよね。
でも、心のなかでは「ほっといてほしい」「私の気持ちなんて誰もわからない…」と思っていることも多いのです。
無理に笑顔にさせようとすると、落ち込んでいる子は「私のこの悲しい気持ちを、この人は分かってくれないんだな」とかえって孤独(ことどく)を感じてしまいます。
まずは、明るい言葉でその場を盛り上げようとするのをやめてみましょう。「あえて何もしない」ことも、立派な思いやりなのです。
魔法その2:「どうしたの?」と問い詰めない
心配なあまり、「ねえ、何があったの? 誰に言われたの? 先生に言う?」と、マシンガンのように質問攻めにしてしまうことはありませんか?
落ち込んでいるときの脳は、ただでさえ情報がいっぱいで疲れています。そんなときにたくさん質問されると、答えるだけでエネルギーを使ってしまい、さらに疲れてしまいます。
声をかけるときは、質問攻めにするのではなく、次のようにシンプルに声をかけてみましょう。
- 「ここに座ってもいい?」
- 「お茶(お水)飲む?」
- 「もし、お話したくなったら聞くからね」
これだけで十分です。相手が「そっとしておいてほしい」という雰囲気を出していたら、「じゃあ、またあとでね」と静かにその場を離れる優しさも大切です。
魔法その3:ただ「隣にいるよ」の姿勢を見せる
これが一番パワフルで、一番大切な魔法です。
言葉をたくさんかけなくてもいいのです。悲しんでいる子の近くの席に座る。登校班の集合場所で、いつもより少し近くに立つ。帰り道、トボトボ歩く友だちの歩幅(ほはば)に合わせて、同じペースで歩く。
それだけで、あなたの脳の「ミラーニューロン」と、相手の脳の「安心ネットワーク」がつながります。
「私はあなたを一人にしないよ」「ここにいるよ」という無言のメッセージは、どんなにすばらしい励ましのスピーチよりも、深く相手の心に届きます。
学校でのリアルな場面:こんなとき、どうする?
では、学校生活の中でよくある具体的な場面を想像してみましょう。あなたなら、どう行動しますか?
ケース1:係の仕事を失敗して、教室のすみで泣いているAさん
クラスの黒板係だったAさんが、今日の係の仕事を忘れてしまい、先生にちょっときつく注意されてしまいました。Aさんは自分の席で、机に顔をうずめて泣いています。
周りのクラスメートは「どうしたの?」「なんか怒られてるよ…」と遠くからコソコソ見ています。
こんなとき、あなたはどうしますか?
みんなが遠くで見ているときに、わざわざ大声で「Aちゃんなんで泣いてるのー?」と近づくのはNGです。Aさんのプライドが傷ついてしまいます。
代わりに、こんなふうに行動してみましょう。
自分の席からスッと立ち上がり、Aさんの机の近くに行きます。「ねえ、ちょっとこれ貸して」と教科書を借りるふりをして近くに行き、誰もいないタイミングを見計らって、机の端に小さなメモを置きます。
メモにはこう書きます。
「あとで黒板の仕事、手伝うから言ってね。大丈夫だよ」
それだけ言って、すぐに自分の席に戻ります。Aさんは顔を上げたとき、そのメモを見て、きっとすごくホッとするはずです。言葉で励まされなくても、「自分のことを分かってくれて、助けようとしてくれる人がいる」という事実だけで、脳の緊張がとけ、涙が止まるきっかけになります。
ケース2:大すきだったペットが天国にいってしまい、元気がないBくん
いつもは元気いっぱいで、クラスの人気者のBくんが、今朝はなんだかげっそりしています。休み時間も校庭に行かず、ずっと机に伏せたままです。
実は、飼っていたハムスターが昨日、天国にいってしまったのです。
こんなとき、あなたはどうしますか?
「元気出してよ! ドッジボール行こうぜ!」と誘うのは逆効果です。Bくんの心は今、大きな悲しみでいっぱいです。
そんなときは、Bくんの机の横に、そっと椅子を引いて座ってみましょう。何も言わなくて大丈夫です。ただ、教科書を開くふりをして、Bくんのそばに静かに存在します。
もしBくんがポツリと「昨日さ…」と話し始めたら、遮(さえぎ)らずに、ただ「うん、うん」とうなずきながら最後まで聞いてあげてください。
「それは悲しかったね」「ずっとかわいがってたもんね」と、Bくんの気持ちをそのまま言葉にして返す(オウム返しにする)だけで、Bくんの心の中にある重い荷物が、少しずつ軽くなっていきます。
「聞き上手」は、最高の友達になれる
私たちは、友達と話すとき、「面白い話をしなければいけない」「場を盛り上げなければいけない」と思いがちです。
もちろん、みんなでワイワイ楽しい時間を過ごすことも、学校生活の大切な一部分です。
でも、本当の友情が試されるのは、その子が「楽しいとき」ではなく、「悲しいとき」や「ピンチのとき」です。
人が一番弱っているときに、自分のそばに静かに寄り添ってくれて、何も言わずに話を聞いてくれた人のことは、大人になってもずっと覚えているものです。
「あのとき、私がすごく落ち込んでいたとき、あの子は何も言わずに隣にいてくれたな」
そんなふうに、あなたの存在が、友達の心の「お守り」になるのです。
今日学んだ神経科学の秘密を思い出してください。人間の脳は、誰かと気持ちを分かち合い、安心し合いたいという仕組みでできています。あなたが悲しんでいる友だちにそっと寄り添うとき、あなたの脳も、そして友だちの脳も、あたたかい「安心ホルモン」で満たされています。
明日、もし学校でしょんぼりしている友達を見つけたら、大声で笑わせようとするのではなく、そっと近づいて、隣に座ってみてください。
言葉はいりません。あなたのその「やさしい沈黙」と「寄り添う心」こそが、だれとでも深く、強い絆(きずな)で結ばれるための、もっとも強力な魔法なのですから。