自分が勝つことより「みんなが納得すること」を選ぶ

📖 『「感じいい人」になれる、敵をつくらない10の習慣』
ー 第10章:勝ち負けを求めない「協力」の姿勢 ー
\ 悩める青年へ――明日を変える突破口 /
自分が勝つことより「みんなが納得すること」を選ぶ
全 40 ページ中 37 ページ目

誰かが勝つと、誰かが傷つく?学校生活に潜む「勝ち負け」の罠

中学校という場所は、思っている以上に「勝ち負け」の視線に満ちています。

定期テストの順位、部活のレギュラー争い、体育祭の対抗戦。それだけではありません。休み時間のちょっとした会話、文化祭の出し物を決めるときの意見のぶつかり合い、さらには「クラスのなかで発言力があるかどうか」という目に見えない立ち位置の奪い合いまで、僕たちは毎日、無意識のうちに「勝つか、負けるか」のゲームに参加させられているように感じてしまうことがあります。

たとえば、文化祭の出し物を決めるホームルームの時間を思い出してみてください。

「絶対に劇がやりたい!」と譲らないA君グループと、「準備がめんどくさいから、教室でできる謎解きカフェがいい」と主張するBさんグループ。お互いに自分の意見を通そうとして、議論は平行線。場の空気はどんどん重くなり、最終的に多数決で劇に決まったとします。

勝ったA君たちは「よっしゃ!」と歓声をあげますが、負けたBさんたちは面白くありません。その後の準備期間中、Bさんたちはどこか冷めた態度を取り、クラス全体の一体感は生まれないまま本番を迎えてしまう……。こんな光景、心当たりがありませんか?

ここで起きたことを冷徹に振り返ってみましょう。A君は自分の意見を通すという意味で「勝ち」ました。しかし、その代償として「Bさんたちの協力」と「クラスの良好な人間関係」を失ったのです。

自分の主張を押し通して勝つ人は、一瞬の達成感を手に入れます。しかし同時に、負けた側に「不満」や「悔しさ」、時には「恨み」という不快な感情を残します。それが積もり積もると、気づいたときには周りが敵だらけになり、「あの人は自分のことしか考えない」という評価が定着してしまうのです。

思春期を迎えた僕たちが目指すべきなのは、誰かを叩きのめす「勝ち」ではありません。自分も損をせず、相手も納得する「誰も敵にしない答え」を見つけ出す力です。

「ゲーム理論」で解き明かす:なぜ勝ちにこだわると損をするのか

ここで少し、大人の学問の力を借りてみましょう。世の中の人間関係や社会の仕組みを数学的に分析する「ゲーム理論」という学問があります。

ゲーム理論では、人々の争いや協力の状況を大きく2つのタイプに分けて考えます。

  • ゼロサム・ゲーム:全員の得点を合計すると「ゼロ」になる勝負のこと(誰かの得(+)は、誰かの損(−)になる)。例:サッカーの試合、テストの順位争い。
  • 非ゼロサム・ゲーム:お互いの行動次第で、全員がプラス(得)になることも、全員がマイナス(損)になることもある状況。例:クラスの行事、チームワーク。

学校生活の人間関係のほとんどは、実は「非ゼロサム・ゲーム」です。それなのに多くの人が、人間関係を「ゼロサム・ゲーム(どちらかが勝って、どちらかが負ける勝負)」だと勘違いしてしまっています。

ゲーム理論の超有名な実験に「囚人のジレンマ」というものがあります。詳しい条件を省いてわかりやすく言うと、「お互いが自分の利益だけを追求して裏切り合うと、お互いにとって一番最悪な結果になる」ということを証明した理論です。

先ほどの文化祭の例で言えば、「自分のやりたいこと(劇)」だけを突き通そうとした結果、クラスがバラバラになり、行事全体がつまらないものになってしまう。これこそが「二人とも損をした」最悪の結果です。

さらに、ゲーム理論にはもう一つ、僕たちの学校生活にとって決定的に重要な教えがあります。それは「繰り返しゲーム」という考え方です。

見知らぬ旅先で会った人と一度きりのジャンケンをするなら、自分が勝つことだけを考えればいいでしょう。二度と会わないからです。しかし、クラスメイトや部活の仲間とはどうでしょうか? 明日も、来週も、卒業まで毎日顔を合わせますよね。これが「繰り返しゲーム」です。

繰り返しゲームの世界では、「自分だけが勝とうとする行為」は絶対に長続きしません。一度力ずくで勝ったとしても、次のゲーム(次の行事や普段の会話)で相手から必ず「復讐(しっぺ返し)」をされるからです。

「あの時、あいつは僕の意見を無視したから、今度はあいつの意見に反対してやろう」

そんな暗黙の敵意が生まれてしまったら、学校生活は居心地の悪い「心理的な戦場」に変わってしまいます。目先の1勝にこだわったせいで、未来の100勝をドブに捨てているようなものです。

「勝者と敗者」をつくらない、「みんなの納得」を生み出す3つのステップ

では、自分だけが勝つことを手放し、周りと「みんなが納得する答え」を作り出すには、具体的にどう振る舞えばいいのでしょうか。明日からすぐに使える3つのステップを伝授します。

ステップ1:「主張」ではなく「本当の願い(ニーズ)」を探る

意見がぶつかったとき、僕たちはどうしても「A案か、B案か」という表面的な言葉の叩き合いをしてしまいがちです。しかし、本当に見るべきなのは言葉の裏にある「相手の本当の願い(ニーズ)」です。

対立が起きたら、心の中でこう問いかけてみてください。

「この人は、なぜその意見にこだわっているんだろう?」

たとえば、「クラスの合唱コンクールの練習を毎日放課後にやりたい」という真面目な委員長と、「放課後練習なんてやりたくない」という男子生徒が対立したとします。

  • 委員長の主張:「毎日放課後練習する」 → 本当の願い:「金賞を取りたい、みんなで団結したい」
  • 男子生徒の主張:「放課後練習はやらない」 → 本当の願い:「塾や習い事に遅刻したくない、ダラダラやるのが嫌だ」

こうやって分解してみると、二人の「本当の願い」は必ずしも対立していないことが分かります。「塾に遅れず、集中して練習して金賞を目指す」という道が見えてくるはずです。「どちらの意見が正しいか」を競うのではなく、相手が一番大切にしている「本当の願い」に耳を傾けること。これが協力を生み出す第一歩です。

ステップ2:100点満点ではなく「お互い70点の第3の案」を作る

自分の思い通り(100点)にしようとすると、相手は0点になり、敵が生まれます。敵を作らない「感じいい人」は、最初から自分の満足度を「70点〜80点」に設定しています。

そして、自分も相手も70点になれる「第3の案(C案)」を一緒に探そうと提案するのです。

「僕の言ったA案と、君のB案、両方のいいところを取ってC案にしてみない?」

ゲーム理論の言葉で言えば、お互いに少しずつ譲り合って、全員のプラスを最大化する「協調解」を見つけるということです。自分の意見を押し通す強引さよりも、「お互いにとってちょうどいい落としどころを見つける柔軟さ」のほうが、遥かに大人で、クラスから絶大な信頼を集めます。

ステップ3:「しっぺ返し戦略」で、まず自分から協力の姿勢を見せる

ゲーム理論の研究で、人間関係の実験において「最も強い(成果を出す)プログラム」として証明されたのが「しっぺ返し戦略(Tit-for-Tat)」と呼ばれるルールです。

難しそうな名前ですが、やるべきことはシンプルで、次の2つのルールを守るだけです。

  1. 最初の1回目は、必ず相手に「協力」する(親切にする)。
  2. 2回目以降は、相手が前回とった行動と同じ行動を返す。

つまり、最初は自分から相手の意見を尊重し、譲れるところは譲る。もし相手が協力してくれたら、ずっと協力を続ける。もし相手が裏切ったり攻撃してきたら、その時だけ自分も毅然と距離を置く。

ポイントは「まず自分から先に協力の手を差し伸べる」ということです。

「相手が折れたら、僕も折れてあげてもいいよ」という態度では、お互いに様子見をして平行線のままです。少しだけ勇気を出して、「〇〇さんの言っていることも一理あるよね。じゃあ、この部分は〇〇さんの案で行こうよ」と、自分から勝ちを譲ってみる。

先に譲ってもらった相手は、あなたに対して強い「恩義(借り)」を感じます。そして次の機会には、必ずあなたに協力してくれるようになります。

勝ち負けを超えた先に手に入る「最高のポジション」

自分の勝ちにこだわり、誰かを叩きのめして得る勝利は、一瞬の快感と引き換えに「孤立」をもたらします。

一方で、勝ち負けの土俵から降り、みんなが納得する「協力の道」を探せる人はどうでしょうか。

そういう人は、クラスの中で「あの人がいると、話し合いが平和にまとまる」「あの人は自分のことだけでなく、みんなの事情を考えてくれる」という強い安心感を周りに与えます。これこそが、敵を作らないどころか、周囲を自然と味方に変えてしまう「圧倒的な感じよさ」の正体です。

競争に勝つことよりも、関係性を守ること。

1人だけ100点満点で勝つことよりも、全員で70点の納得感を分かち合うこと。

この「協力の姿勢」を身につけたとき、あなたは学校という狭い社会のなかで、誰からも尊敬され、誰からも必要とされる「最高のポジション」を手にしているはずです。

📖 『「感じいい人」になれる、敵をつくらない10の習慣』
全 40 ページ中 37 ページ目

タイトルとURLをコピーしました