「どうせ無理」は、脳の省エネモードのせい
朝、クラスのグループLINEを開いた瞬間、今日の班決めの話題で盛り上がっているのを見た。「あ、私、また余っちゃうかも」「どうせ意見なんて通らないし……」そう思った瞬間、心の中にドロっとした重たい空気が広がって、スマホをそっと伏せた経験はありませんか。
部活のミーティングで「次の大会の目標を決めよう」と顧問の先生に言われたときもそうです。「レギュラーなんて絶対無理」「どうせ練習してもあの先輩には勝てない」と、口を開く前から心の中でブレーキを踏んでしまう。周りのみんながキラキラして見えて、自分だけがその場に取り残されているような焦りと無力感。ため息をつきながら、「自分なんて、どうせこの程度だ」と心の防御壁を作っていませんか。
「できない」と言うたびに、脳の回路が固まる
でもね、ちょっと立ち止まって考えてみてほしいのです。本当に、あなたは「できない」のでしょうか。本当に、あなたの実力はその程度なのでしょうか。
実はこれ、あなたの性格がネガティブなせいでも、意思が弱いせいでもありません。犯人は、あなたの頭の中にある「脳の仕組み」なんです。脳科学の世界では、私たちが普段何気なく使っている言葉が、脳の働きを決定づけていることが分かっています。
人間の脳には、生存本能として「エネルギーをできるだけ使いたくない(省エネしたい)」という強力なプログラムが備わっています。未知のことや、失敗するかもしれないことに直面したとき、脳はこう囁きます。「面倒なことに挑戦して傷つくくらいなら、最初から『無理』と諦めて何もしないほうが安全だよ」と。
そして、「どうせ無理」「私にはできない」という言葉を口に出したり、頭の中で繰り返したりすると、脳の奥にある「網様体賦活系(もうようたいふかつけい)」というアンテナ機能が、「私はできない人間だという証拠」ばかりを世界中から集めてくるようになります。つまり、「できない」と言えば言うほど、脳の回路は本当に「できない理由」を自動的に探し出し、あなたをガチガチの「できない状態」に固定してしまうのです。恐ろしい話ですよね。言葉のチョイス一つで、自分の可能性の芽を自分で摘んでしまっているのです。
脳の「思い込みフィルター」を外し、未来を広げる技術
では、どうすればこの脳の省エネモードを突破して、クラスの中で息苦しさを感じることなく、自分の力を発揮できるようになるのでしょうか。その秘密は、脳の特性を逆手に取った「言葉のアップデート」にあります。
脳はとても素直です。あなたが使う言葉を、そのまま現実の指令として受け取ります。だからこそ、自分の口から出る「マイナスの呪文」を「プラスの魔法」に変換するだけで、脳の働きは劇的に変わるのです。ここでは、明日から学校で使える具体的な3つの変換ルールを紹介します。
ルール1:「無理」を「どうすればできる?」に変換する
クラスの係決めや文化祭の準備で、やりたくない仕事が回ってきたとき、「こんなの無理だよ」と投げやりになっていませんか。「無理」という言葉は、そこで思考をストップさせる「思考停止の呪文」です。
これを、「どうすればできる?」という疑問形に変換してみてください。
例えば、黒板アートの担当になって「絵心ないし、絶対に無理」と思ったとします。そこで「どうすればできる?」と脳に問いかけてみるのです。「プロジェクターで下絵を投影すればいいんじゃないか」「絵が得意な友達にアドバイスをもらおう」と、脳のアンテナが「解決策」を探し始めます。疑問形を使われた脳は、それを解決せずにはいられないという性質(ツァイガルニク効果と言います)を持っているため、勝手にアイデアを回転させ始めるのです。
ルール2:「できない」を「まだやっていない」に変換する
テストの返却日。「数学、また赤点だった。私、勉強できないんだ」と落ち込むのはまだ早いです。
「できない」という言葉は、自分の能力にレッテルを貼ってしまいます。これを「まだやっていない(これからやる)」と言い換えてみましょう。
脳科学的に見ると、人間の脳(神経可塑性:しんけいかせい)は、いくつになっても、どんな勉強や経験をしても、新しいシナプス(脳のネットワーク)を作って成長し続けることができます。「できない」のではなく、「まだその回路が十分に育っていないだけ」。そう捉えるだけで、次はどんな勉強法を試そうかという「未来の作戦」に意識を向けることができるようになります。
ルール3:「どうせ」を「とりあえず、やってみる」に変換する
部活のレギュラー争いや、クラスの委員会決めなど、「どうせ私なんて選ばれないし……」と立候補するのをやめたことはありませんか。「どうせ」という言葉は、挑戦する痛みを避けるための最高の言い訳ですが、同時に、あなたの世界をどんどん狭くしてしまいます。
この「どうせ」が出てきたら、「とりあえず、やってみる」に強制変換してみましょう。
結果がどうなるかなんて、誰にも分かりません。周りの目が気になる、失敗して笑われたらどうしよう、そんな不安が消えなくてもいいのです。不安を抱えたまま、小さな一歩を踏み出す。その行動そのものが、脳に「私は挑戦できる人間だ」という新しい成功体験を書き込んでいきます。
「言葉の選び方」が、あなたの居場所をつくる
最後に、少しだけ僕自身の話をさせてください。
中学生の頃の僕は、本当につまらない人間でした。クラスの輪に入ることが怖くて、いつも教室の隅で文庫本を読んで、「どうせ俺なんて話しても面白くない」「みんなと一緒にいると疲れる」と、心の中で周りを壁を作っていました。自分の殻に閉じこもっていれば、傷つかなくてすむと思っていたからです。
でも、ある日、ノートの端に「どうせ無理」と書き殴っている自分に気づいて、ぞっとしたんです。「あ、俺、このままだと一生、誰とも心を通わせられないまま大人になっちゃうな」って。
そこから僕は、意識して言葉を変えることにしました。
「どうせ無理」を「やってみる」に変えたのです。最初はめちゃくちゃ怖かった。話しかけて無視されたらどうしよう、浮いたらどうしようって、心臓が飛び出しそうでした。でも、小さな声で「おはよう」と言ってみる。「それ貸して」と言ってみる。ノートに「やってみる」と書いてみる。
そうやって言葉を変えていくうちに、不思議と周りの見え方が変わっていきました。クラスの空気が少しだけ温かく感じられるようになり、気がつけば、安心して笑い合える仲間ができていました。
あなたの毎日は、あなたが口にする言葉でできています。
そして、言葉は、いつでもあなたの意志で選び直すことができます。
- 「無理」という壁にぶつかったら、深呼吸をして「どうすればできる?」と自分に問いかけてみる。
- 「自分にはできない」と落ち込みそうになったら、「まだやっていないだけ」と心の中でつぶやいてみる。
- 「どうせ……」と諦めそうになったら、不格好でもいいから「とりあえず、やってみる」と一歩を踏み出してみる。
明日、学校の教室に入る瞬間、部活の練習が始まる瞬間。心がざわついたら、今日のこのページを思い出してください。あなたの脳は、いつだってあなたの言葉の通りに動き、未来を切り拓く準備をしています。大丈夫、あなたなら絶対にできます。