「でも」ではなく「そうですね」を先に言う

📖 『「また会いたい」と思われる人の小さな習慣 50選 ―なぜか評価される人の「嫌われない」技術―』
ー 第2章:信頼を積み上げる「コミュニケーションの論理」 ー
\ 結果を出したい、すべてのビジネスパーソンへ贈る /
「でも」ではなく「そうですね」を先に言う
全 50 ページ中 14 ページ目

「でも」が招く、見えない壁

ビジネスの現場において、私たちは無意識のうちに「否定のフィルター」を通した会話をしていないだろうか。

会議室で部下が新しい提案をしたとき、あるいは取引先から厳しい意見を投げかけられたとき。反射的に口から出る「でも、それは難しいです」「ですが、予算が足りません」という言葉。この「でも」という接続詞は、単なる逆接の言葉ではない。相手の存在そのものを否定し、心のシャッターを下ろさせる「拒絶の合図」として機能している。

語用論(Pragmatics)の観点から見れば、会話とは単なる情報の交換ではなく、互いの「顔(フェイス)」を守り合う儀式である。相手の提案を即座に否定することは、相手の社会的立場や自尊心を傷つける行為に他ならない。これを「フェイスを脅かす行為」と呼ぶ。一度この行為が行われると、相手は防衛本能を働かせ、論理的な議論よりも「いかに自分を守るか」に意識を向け始める。結果として、どんなに正論を並べても、建設的な対話は不可能になるのだ。

「そうですね」が切り拓く合意の土壌

「また会いたい」と思われる人は、例外なく「受容の技術」に長けている。彼らは決して相手を否定しない。その核心にあるのが、「まずは『そうですね』と受け止める」という習慣である。

これは、相手の意見に全面的に賛成するという意味ではない。相手が提示した事実や感情を、一度自分のフィールドに引き取り、認めるというプロセスである。

社会言語学における「ポライトネス理論」では、相手の意見を肯定的に受け止めることで、心理的な距離を縮める手法を「ポジティブ・ポライトネス」と呼ぶ。相手の考えを一度「そうですね」と受け入れることは、相手に対して「私はあなたの味方であり、あなたの意見を理解しようとしている」というメッセージを送り、信頼の土壌を耕す行為なのだ。

「そうですね」を使いこなす3つのステップ

単に口癖のように「そうですね」と言うだけでは、相手に見透かされる。真の信頼を築くためには、以下のステップを踏む必要がある。

  • 一時停止(ポーズ)を置く:相手が話し終えた後、0.5秒だけ間を置く。この沈黙が「あなたの言葉を咀嚼しています」という敬意を伝える。
  • 「そうですね」を枕詞にする:相手の言葉を肯定的に反復する。「そうですね、〇〇さんの仰る通り、コスト面での課題は無視できませんね」と、相手の懸念を自分の言葉で言い換える。
  • 「かつ」で繋ぐ:ここで初めて、自分の意見を提示する。「そうですね。……かつ、今回のプロジェクトの目的を考えた場合、中長期的な投資として捉えることも可能ではないでしょうか」

この構成をとることで、相手は「否定された」と感じる代わりに「認められた上で、議論が進んでいる」という充足感を覚える。これが、社内政治を円滑にし、交渉のテーブルで優位に立つための「論理的コミュニケーション」の極意である。

否定の連鎖を断ち切るための「変換」訓練

日常の些細なやり取りから、この「否定の癖」を矯正していく必要がある。以下の例を見てほしい。

【NG例】
部下:「今回のプロジェクト、工数を増やせばもっと質が上がります」
上司:「でも、そんな予算はないよ。今のままでやってくれ」

【改善例】
部下:「今回のプロジェクト、工数を増やせばもっと質が上がります」
上司:「そうですね。クオリティを追求したいという意欲は素晴らしい。……かつ、現在の予算枠という現実的な制約の中で、最大限の効果を出すにはどうすればいいか、一緒に考えようか」

この改善例では、上司は「予算がない」という結論を変えていない。しかし、部下のモチベーションを削ぐことなく、むしろ「一緒に考える」という協働関係を築いている。これが「また会いたい」と思われるリーダーの振る舞いだ。

「正しい」ことよりも「心地よい」ことを選ぶ

ビジネスパーソンは往々にして、「正しさ」を証明することに執着する。「論破」という言葉が流行ったように、相手の矛盾を突き、自分の意見を通すことが勝利だと勘違いしている人が多い。

しかし、人間関係の心理学において、正しさはしばしば「孤独」を連れてくる。議論に勝って人間関係を失うことは、ビジネスにおいては最大の損失だ。

「そうですね」という言葉は、相手との間に橋を架けるためのツールである。一度橋を架けてしまえば、その上を渡ってこちらの意見を届けることは容易になる。相手の論理を否定せず、一度受け入れる。その余裕こそが、知的で洗練された大人の「強さ」の正体だ。

明日からできる「小さな習慣」

今日から、会議やメールの返信において、以下のルールを自分に課してみてほしい。

  • 「でも」「しかし」「いや」を禁止ワードにする:これらの言葉が喉まで出かかったら、一度深呼吸をする。
  • 相手の言葉をオウム返しにする:相手の言ったキーワードを「そうですね、〇〇ということですね」と繰り返すだけで、相手の警戒心は劇的に下がる。
  • 「視点の転換」を提示する:否定するのではなく、「別の角度から見るとどうなるか」という提案の形をとる。

言葉は、思考の鏡である。相手を尊重する言葉を選び続けることは、やがて自分自身の思考を柔軟にし、周囲に人が集まる人間へと変貌させる。

「そうですね」と微笑む。その一言が、あなたのキャリアを劇的に変える。信頼は、こうして一歩ずつ、言葉の積み重ねによって築かれていくのである。

📖 『「また会いたい」と思われる人の小さな習慣 50選 ―なぜか評価される人の「嫌われない」技術―』
全 50 ページ中 14 ページ目

タイトルとURLをコピーしました