他人の手柄を自分のものにしない
学校生活を送っていると、こんなモヤモヤした瞬間に出会うことはありませんか?
例えば、文化祭の出し物を決めるクラス会議。なかなか良いアイデアが出ず、みんなが黙り込んでしまったとき。あなたの隣にいる物静かなAくんが、ボソッと「……お化け屋敷の壁に、プロジェクターで動く影を映したら不気味じゃない?」とつぶやきました。あなたは「それ、すごく面白い!」と思い、クラス全体に向かってこう発言します。
「みんな、プロジェクターで動く影を映すお化け屋敷はどうかな? 俺、いいこと思いついたんだけど!」
クラスは大盛り上がり。「さすが!」「天才!」と、あなたに称賛の拍手が送られます。そのとき、隣のAくんはどんな表情をしているでしょうか。少し寂しそうに、うつむいているかもしれません。あなたは決してAくんを傷つけるつもりはなかったはずです。ただ、その場のノリと「認められたい」という気持ちが先走ってしまい、Aくんのアイデアを「自分の手柄」にしてしまったのです。
あるいは部活動で、あなたがシュートを決めて試合に勝ったとき。そのシュートの前に、泥臭く相手のディフェンスを引きつけて絶妙なパスをくれたB先輩の存在を無視して、「俺の実力で勝てた!」とSNSに投稿してしまったら、B先輩はどう思うでしょうか。
このように、悪気はなくても、他人のアイデアや努力、つまり「他人の手柄」を自分のものとして発表してしまう瞬間は、日常のあちこちに潜んでいます。そして恐ろしいことに、手柄を奪われた本人はもちろん、それを見ている周りのクラスメイトも、あなたのその行動をしっかりと見ています。そして心の中で、静かにあなたから離れていくのです。
なぜ、他人の手柄を奪うことはこれほどまでに人間関係を壊してしまうのでしょうか。そして、どうすればグループの中で「この人と一緒にいると、自分の努力が報われる」と信頼される存在になれるのでしょうか。その秘密を、科学的な理論から解き明かしていきましょう。
「ゲーム理論」が教えてくれる、裏切り者の悲しい末路
「他人の手柄を奪う」という行為が、なぜあなたにとって致命的なマイナスになるのか。それを説明してくれるのが、数学や経済学で使われる「ゲーム理論」という学問です。難しそうな名前に聞こえますが、要するに「人と人が関わるとき、どう動くのが一番お互いにとって得になるか」を計算する学問です。
ゲーム理論の中に、学校生活にそっくりな「繰り返しゲーム」という考え方があります。
もし、あなたが旅先でたまたま出会った人と、一回きりのトランプゲームをするとします。もう二度と会わない相手なら、ルールを少しごまかしてでも、自分が勝って賞品をもらう方が「得」かもしれません。一回きりの関係(単発ゲーム)では、相手を裏切った方が得をすることがあるのです。
しかし、学校生活は違います。クラスメイトや部活の仲間とは、今日だけでなく、明日も、来週も、卒業するまで毎日顔を合わせますよね。これが「繰り返しゲーム」です。何度も何度もゲーム(関わり合い)が続く関係において、一番得をするのはどんな人だと思いますか?
ゲーム理論の研究では、繰り返しゲームにおいて最も強い(=最終的に一番得をする)戦略は、「しっぺ返し戦略(チット・フォー・タット)」であることが証明されています。これは、以下のようなシンプルなルールです。
- 最初は相手を信頼して、協力する。
- 相手が協力してくれたら、次も協力する。
- もし相手が自分を裏切ったら(手柄を奪うなど)、次は自分も裏切る(協力しない)。
- 相手が反省してまた協力してきたら、すぐに許して自分も協力に戻る。
これを学校生活に当てはめてみましょう。あなたがAくんのアイデアを自分のものとして発表した(裏切った)とします。Aくんは「しっぺ返し戦略」を無意識に発動します。次にグループワークがあったとき、Aくんはもうあなたに良いアイデアを教えてくれません。それどころか、あなたが困っていても助けてくれなくなります。さらに、その様子を見ていた周りの人たちも、「あの人は他人の手柄を横取りする人だ」と学習し、あなたに対して警戒心を抱き、協力を拒むようになります。
一時的な「すごい!」という注目を浴びるために他人の手柄を奪うことは、ゲーム理論的に見ると「目先の小さな利益のために、将来得られるはずだった膨大な協力関係をすべてドブに捨てる」という、極めて大損な選択なのです。
組織社会学で紐解く「見えない貢献」と「信頼の貯金」
もう一つ、「組織社会学」という学問の視点を紹介します。これは、「人間がグループを作ったとき、どうすればそのグループがうまく機能するか」を研究する学問です。
組織社会学では、グループの中での人々の役割を大きく2つに分けて考えます。
- フォーマルな役割(目立つ役割): リーダー、発表者、主役、シュートを決める人など。
- インフォーマルな貢献(見えないサポート): アイデアを出す人、資料を準備する人、話し合いの雰囲気を和ませる人、落ち込んでいるメンバーに声をかける人など。
学校の先生や、あまり深く人間関係を見ていない人は、どうしても「1. フォーマルな役割」で目立っている人ばかりを褒めてしまいがちです。しかし、組織社会学の研究によれば、グループが本当に成果を出し、メンバーが仲良く活動し続けられるかどうかは、「2. インフォーマルな貢献」をしている人がどれだけ大切にされているかで決まるのです。
他人の手柄を自分のものにする人は、この「見えないサポート」をしてくれた人の存在を無視し、自分だけの力で成功したかのように振る舞います。これを社会学では「社会的フリーライダー(タダ乗り)」と呼びます。タダ乗りされたメンバーは、一気にやる気を失い、そのグループは崩壊へと向かいます。
逆に、なぜかいつも周りに人が集まり、「またこの人と一緒にグループを組みたい」と言われる人は、この「見えない貢献」に光を当てることが抜群に上手な人です。彼らは、目立たないけれど大切な役割を果たしてくれた仲間の存在を、絶対にスルーしません。
他人の貢献を認め、それを周囲に伝える行動は、あなたの心の中にある「信頼の貯金箱(ソーシャル・キャピタル)」に、チャリンと大きなコインを入れるようなものです。この貯金が貯まっている人は、自分が困ったときに、周りから信じられないほどのサポートを受けることができます。他人の手柄を奪わないことは、相手のためであると同時に、あなた自身の「信頼の貯金」を増やす最強のテクニックなのです。
今日からできる「手柄を分かち合う」3つの魔法のルール
では、具体的に明日からの学校生活で、どのように振る舞えば「手柄を奪わない人」になり、絶大な信頼を集めることができるのでしょうか。今日から実践できる3つの具体的なルールを提案します。
ルール1:主語を「私(俺)」から「私たち」に変える
グループでの活動がうまくいったときや、先生から褒められたとき、無意識に使っている言葉を少しだけ変えてみましょう。ポイントは、主語を「単数形(I)」から「複数形(We)」に変換することです。
- NGな言い方:「先生! 俺がこのポスターのデザインを考えました!」
- 魔法の言い方:「先生! 私たちがみんなで意見を出し合って、このデザインに決まりました!」
たとえあなたがリーダーとして引っ張ったプロジェクトであっても、「私たちが」「みんなで」という言葉を使うようにしてください。これだけで、周りのメンバーは「この人は自分たちの努力もちゃんと見てくれているんだ」と安心し、あなたに対する好感度が跳ね上がります。
ルール2:「〇〇くんのおかげ」を具体的に口にする
他人の貢献を見つけたら、それを心の中で思うだけでなく、みんなの前で声に出して紹介しましょう。これができるようになると、あなたの信頼度はクラスで圧倒的なものになります。
例えば、グループ発表が終わって、先生から「素晴らしい発表だったね」と褒められたとき。
「ありがとうございます。実は、スライドのこの見やすい図は〇〇さんが作ってくれたんです。私はそれを読んだだけなんですよ」
このように、具体的な名前を出して、その人の貢献をアピールします。一見、自分の手柄を他人に譲ってしまい、自分の価値が下がってしまうように感じるかもしれません。しかし、現実は真逆です。これを聞いた先生やクラスメイトは、「〇〇さんもすごいけれど、こうやって仲間の貢献を素直に褒められるこの人は、なんて器が大きくて素敵なリーダーなんだろう」と、あなたに対して最大の敬意を払うようになります。他人の手柄を立てることは、結果としてあなたの評価を何倍にも高めるのです。
ルール3:スポットライトを当てる「照明係」になる
劇の主役は、スポットライトを浴びて輝きます。でも、その光を当てている「照明係」がいなければ、主役は暗闇の中で誰にも見えません。学校生活において、あなたがあえて「照明係」の役割を買って出てみましょう。
部活動で後輩がファインプレーをしたとき、すかさず「今のカット、最高だったよ!」と声をかける。クラスの片付けを黙々とやっている人を見つけたら、「いつも最後まで片付けてくれてありがとう、助かってる」と伝える。誰も見ていないような小さな努力に、あなたがスポットライトの光を当ててあげるのです。
人間には、「自分の存在や努力を認めてほしい」という強い欲求(承認欲求)があります。あなたが照明係になって周りを照らし続けると、周りの人たちは「この人と話すと、自分が認められた気持ちになる」「この人とまた話したい」と思うようになります。気づけば、あなたの周りにはいつも温かい笑顔があふれるようになっているはずです。
「また話したい」と思われる人は、スポットライトを分け合える人
中学生の時期は、誰もが「自分を良く見せたい」「周りから認められたい」と必死になっています。だからこそ、ついつい他人の手柄を奪ってでも、自分を大きく見せようとしてしまいがちです。それは決して、あなたに悪意があるからではありません。自分に自信がなくて、少し焦っているだけなのかもしれません。
しかし、今回学んだゲーム理論と組織社会学が示す通り、自分だけの力で輝こうとする人は、長期的には孤立し、誰からも助けてもらえなくなってしまいます。
本当に強くて、本当にみんなから愛される人は、自分ひとりでスポットライトを独占しようとはしません。むしろ、手に入れたスポットライトの光を、隣にいる仲間と分け合える人です。「あなたのおかげで、この成功があるんだよ」と、笑顔で言える人です。
他人の手柄を自分のものにしない。それどころか、他人の小さな手柄を誰よりも早く見つけて、一緒に喜んであげる。そんな「魔法のルール」を身につけたあなたの周りには、明日から、あなたを心から信頼する最高の仲間たちが集まってくるでしょう。